1977年から1980年というUKパンク黎明期の空気をそのまま封じ込めた、Menaceの『G.L.C. The Original Masters』は、ロンドンの裏通りで鳴り響いた怒りと誇りの記録だ。Oi!パンクの原型を形作ったとされるこのバンドは、労働者階級のリアルな感情をストレートにぶつける歌詞と、シンプルだが骨太なサウンドで知られる。本作は、彼らの初期音源を網羅したまさに「原点回帰」とも言うべきコンピレーションであり、当時の熱量をそのまま体感できる一枚となっている。
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ジャンルと音楽性
Menaceのサウンドは、クラシックなストリートパンクとOi!の原石的衝動を兼ね備えている。Sex PistolsやThe Clashと同時代に活動しながらも、より泥臭く、より現実に根ざした感覚を持つのが彼らの特徴だ。スリーコードの単純明快な構成に、コーラスが加わることで“仲間と叫ぶ”ような一体感を生み出し、パンクがファッションではなく「生き様」であった時代の空気を伝える。リズムはラフだがエネルギーに満ち、ギターのざらついた音がストリートの埃を思わせる。
おすすめのトラック
- 「G.L.C.」
タイトルにもなっているこの曲は、当時のロンドン行政(Greater London Council)への痛烈な皮肉を込めた代表曲。シンプルなリフとキャッチーなコーラスが、反体制スピリットをこれ以上ない形で体現している。観客が一斉に叫ぶ“G.L.C.! G.L.C.!”のフレーズは、今もOi!シーンの象徴的な瞬間だ。 - 「Insane Society」
パンクの社会批判的な側面を強く打ち出した一曲。疾走感のあるリズムにのせて、狂った社会への怒りを吐き出す。音の粗さがかえってリアリティを増し、時代を超えて響くメッセージ性を持つ。 - 「Last Year’s Youth」
青春の虚無感と反抗を描いたパンク・アンセム。荒々しいボーカルとスラッシーなギターがぶつかり合い、失われた若さと自由への渇望を描き出す。キャッチーなメロディラインが印象的で、ライブでは常に盛り上がる一曲だ。 - 「Carry No Banners」
政治的イデオロギーから距離を置き、純粋に自分たちの生き方を貫く姿勢を歌う曲。どこにも属さず、自分の信じる道を行くというメッセージは、現在のインディペンデント精神にも通じる。 - 「Tomorrow’s World」
未来への皮肉と希望が同居するナンバー。80年代初頭の不況下の若者たちが抱いた不安をそのまま音にしたような、リアルで切実なトーンが印象的だ。
アルバム総評
『G.L.C. The Original Masters』は、Menaceというバンドがいかにストリートの声を代弁する存在だったかを改めて証明する作品だ。音は粗削りで、プロダクションも決して洗練されていない。だがそこにこそ、この時代のリアルが詰まっている。政治への不信、労働者階級の誇り、そして仲間との連帯——それらすべてが数分のパンクソングに凝縮されているのだ。Oi!やストリートパンクのルーツを探る者にとって、本作はまさにバイブル。Menaceの怒りと希望は、45年以上経った今も決して色あせていない。