The Bridge City Sinners/Bridge City Sinners
オレゴン州ポートランドで2016年に結成されたバンド、ザ・ブリッジ・シティ・シナーズのセルフタイトルのデビューアルバムは、誠実さと皮肉の間を絶妙に行き来する一枚として、フォークパンクシーンに鮮烈な印象を残しました。リード・シンガー兼バンジョレレ奏者のリビー「ラックス」・バーソリー、シンガー兼クラリネット奏者のライアン・ダフ、レゾネーター・ギタリストのマイケル「シナー」・フレチャ、アップライト・ベースのスコット・ミショー、ウォッシュボード奏者のアマンダ・ジェンキンスという個性豊かな5人が揃い、路上でのバスキングから出発したバンドが初めて音源として残した記念碑的な一枚です。
ジャンルと音楽性
禁酒法時代のジャズとアパラチアン・デス・フォークを軸に、フォークパンク、ブルーグラス、ブラックグラス、マーダーフォークまでをストリング・バンドの編成で横断するサウンドが持ち味です。弦楽器が供給する独自のリズムのバウンスをバックに、フォーク、ジャズ、パンク、ブルーグラスの境界線をまたいだオリジナル曲が展開し、歌詞には邪悪な物語とシナリオが満載されています。プロダクションは徹底的にDIYで、まるで雷雨の中のガレージで録音されたかのような生々しさが、このバンドの最大の魅力です。

The Bridge City Sinners/Bridge City Sinners
おすすめのトラック
- Satan’s Song
アルバムの幕開けを飾る、このバンドの本質を一発で伝える問題作です。
最初はムーディーに始まったかと思うと、突然クラリネットが乱入してくる展開は、「パンクの喧嘩にクラリネットを持ち込む男は誰だ?」という驚きとともに、聴き手をブリッジ・シティ・シナーズの世界へ一瞬で引き込みます。ライアン・ダフの砂利を飲み込んだような後悔に満ちたボーカルが際立つ、バンドの名刺代わりの一曲です。 - St. James Infirmary
アメリカの伝統的なブルース曲をバンド流のジャズ・フォークアレンジで再解釈したカヴァーです。
「セント・ジェームズ・インファーマリー」から「ジャングル・ブック」の「アイ・ワナ・ビー・ライク・ユー」まで、ジャズ・フォークアレンジのカヴァーがアルバムを彩っており、誠実さと皮肉の間を行き来するバンドのスタイルを最もよく体現しています。4分16秒かけてじっくりと展開する本曲は、バンドの音楽的ルーツへの敬意と独自の解釈力が光るハイライトです。 - Laugh While You Can
タイトルだけで全てを語る、このアルバムの精神的な核心部です。アップビートに聴こえるサウンドとは裏腹に、歌詞は決して明るくありません。笑いながら泣きをこらえるという、人間の感情の最も複雑な側面を音楽に昇華させたこのトラックは、ブリッジ・シティ・シナーズというバンドの本質をひと言で表しています。 - I Wan’na Be Like You
ディズニー映画「ジャングル・ブック」の名曲をダーク・フォーク流に再解釈したカヴァーです。
原曲の陽気なポップさを保ちながら、禁酒法時代のジャズとフォークパンクのフィルターを通すことで、まったく別の毒と魅力を帯びた一曲へと変貌しています。誰もが知るメロディがこんなにも危険な香りを放つことができるのかという驚きが、このバンドの音楽的センスのすごさを物語っています。
アルバム総評
路上バスキングから出発したバンドが初めて残したこのセルフタイトル盤は、後に「アンホーリー・ヒムズ」でビルボード・チャートに登場するほどの成長を遂げるバンドの原点として、今なお特別な輝きを放っています。プロダクションの荒削りさもすべて味のうちで、完成度よりも熱量と個性を優先したディーアイワイ精神こそが、ザ・ブリッジ・シティ・シナーズというバンドを唯一無二の存在にしている理由です。フォークパンクシーンの隠れた傑作として、今すぐ手に取る価値のある一枚です。
🎵St. James Infirmary


