Gorillaz/The Fall
イギリスのバーチャルバンド、GorillazのフロントマンであるデイモンとJamie Hewlettによる4thスタジオアルバム『The Fall』は、2010年12月25日にGorillazのサブ・ディビジョン・ファンクラブ会員向けに無料配信され、2011年4月19日にパーロフォン(英国)とヴァージン・レコード(米国)よりフィジカル版がリリースされました。
アルバム全編がデイモン・アルバーンのiPadで録音・ミックスされており、2010年秋のGorillazの「エスケープ・トゥ・プラスティック・ビーチ・ツアー」のアメリカ公演期間中、モントリオールからバンクーバーまでの32日間で制作されました。
各楽曲はほぼ1日で書かれ、後からオーバーダブを加えることもなく、アルバーン自身が「アメリカでの体験の一種の日記」と表現したこの作品には、ボビー・ウォマック、ザ・クラッシュのミック・ジョーンズとポール・シムノンらがゲスト参加しています。
ジャンルと音楽性
ローファイ・エレクトロニックを基盤に、スペクトラルなフックが霞の中に浮かんでは消え、ドラムループが輪郭を与えるという幻幻的なサウンドが全編を支配しています。「フォナー・トゥ・アリゾナ」「デトロイト」「ダラスのヘビ」「アスペン・フォレスト」「シアトル・ヨーデル」といった曲名が特定の都市を参照しながらも、その音楽は特定の場所に縛られず、2010年秋のアメリカ横断ツアーそのものの反映として機能しています。
アルバムのテーマとして「アイデンティティの喪失」が全編に通底しており、旅の単調さの中で答えを探し続けるアルバーンの問いかけが、ローファイなサウンドと溶け合っています。

Gorillaz/The Fall
おすすめのトラック
- Revolving Doors
アルバム最大のハイライトにして、シングルとしてもリリースされた一曲です。
スムーズに弾むアコースティックギターと心地よいベースビートが際立つこのトラックは、iPadの要素がアルバーンの声の下に溶け込み、ほぼ目立たないほど有機的な仕上がりになっています。「リヴォルビング・ドア、私は何者になるのか?」という問いかけが、このアルバム全体のテーマを体現した名曲です。 - Amarillo
「シンプルに美しい」と評される、アルバム屈指の叙情的な一曲です。シングルのB面としてもリリースされ、多くのリスナーがGorillazの曲の中でもベストに挙げるほどの感動的なトラックです。霞がかかったエレクトロニクスの中に、アルバーンの儚いメロディが浮かび上がるこの曲は、ツアーバスから眺めるアメリカの夕景そのものの美しさを持っています。 - Bobby in Phoenix
ボビー・ウォマックをフィーチャーしたこのトラックは、多くのリスナーのお気に入りとして挙げられるアルバム後半のハイライトです。ソウルの巨人ボビー・ウォマックの存在感が、ローファイなエレクトロニクスに温かみと深みを加えており、このアルバムの中でも特に感情的な輝きを放っています。 - Detroit
曲名が示す通り、デトロイトという都市への旅の記録として書かれた一曲です。
スパーリングなビートと幽霊のようなシンセが絡み合うこのトラックは、アメリカ中西部の広大な工業都市の空気感を音楽に昇華させており、このアルバムが単なる「ロードムービー」を超えた芸術的な記録であることを示しています。
アルバム総評
「電子アルバムでありながら親密に聴こえ、晩夏の温もりが秋の憂鬱に変わっていくような感覚を与える」と評された本作は、完成度よりも生々しさと即興性を選んだ作品です。
『Demon Days』や『Plastic Beach』のような大作を求めてこのアルバムに来るならば失望するかもしれませんが、アルバーンが新しいアイデアを試し続けた旅の記録として捉えれば、過去3枚のGorillazリリースにも通じる美しい瞬間が随所に宿っています。iPadという新しいツールで音楽の可能性を広げた歴史的な実験作として、Gorillazファンなら必ず一度は向き合うべき一枚です。
🎵Revolving Doors


