Iggy & The Stoogesが1973年にリリースした『Raw Power』は、ロック史において最も影響力がありながら、最も議論を呼んだ名盤の一つです。後のパンク、ポストパンク、そしてグランジに至るまで、数多くのバンドのDNAに組み込まれた剥き出しの「生」のエネルギーが凝縮されています。プロデューサー、デヴィッド・ボウイによるオリジナルの異端的なミックスは長年賛否両論を呼びましたが、そのサウンドは、このバンドが放つ動物的な衝動と暴力的な美学を、唯一無二の形で表現しています。このアルバムは、単なる音楽作品ではなく、抑圧された若者の怒りと退廃的なロックスターの姿を、そのまま音像に叩きつけた時代の象徴と言えるでしょう。
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ジャンルと音楽性
本作は「プロト・パンク」の最高傑作と位置づけられています。前衛的なノイズとガレージロックの衝動性を基盤としながら、ジェイムズ・ウィリアムソンによる鋭利でヒステリックなギターワークが、楽曲に強烈なアグレッシブさを加えています。イギー・ポップのボーカルは、甘美さとはかけ離れた、叫び、喘ぎ、時に歌い上げるという、非常に感情的で肉体的な表現に終始しています。その音楽性は、洗練されたロックンロールの終焉と、パンク・ムーヴメントの勃発を予感させるような、混沌としていながらも、圧倒的なカリスマ性に満ちています。
おすすめのトラック
このアルバムの核となる、破壊力に満ちた主要トラックをご紹介します。
・「Raw Power」 アルバムのオープニングを飾るタイトル曲。ウィリアムソンの切り裂くようなギターリフと、イギーの挑発的なシャウトが、聴き手を一瞬でバンドの狂気的な世界観に引き込みます。衝動的なエネルギーが爆発する、まさに「生々しい力」を体現した一曲です。
・「Shake Appeal」 リフとドラムが性急に突っ走る、疾走感溢れるパンクロックの雛形とも言えるトラックです。ほとんど制御不能に見える荒々しい演奏が、聴く者に純粋な興奮と高揚感を与えます。初期パンクのシンプルかつ破壊的な美学が詰まっています。
・「Your Pretty Face Is Going to Hell」 荒々しくもグルーヴ感のある、ストレートなロックンロールナンバー。イギーの自暴自棄で皮肉に満ちた歌詞と、バンドのワイルドな演奏が一体となり、聴く者を熱狂の渦に巻き込みます。
・「Search and Destroy」 このアルバムの、そしてパンク・ロックの聖典とも言える問答無用の名曲です。ドラマティックでメロディアスなギターリフは、後のニルヴァーナをはじめとする多くのオルタナティブ・バンドに決定的な影響を与えました。
アルバム総評
『Raw Power』は、完璧さとは無縁かもしれませんが、その不完全さこそが魅力となっている作品です。制作時のトラブルや、ミックスに関する長年の議論さえも、このアルバムが持つ「危険で制御不能な芸術性」の一部として語り継がれています。ロックの歴史を変えたバンドが残した、最も純粋で、最も暴力的な、そして最も重要な記録の一つとして、すべてのロックファンに聴き継がれるべき傑作です。


