ブルックリンを拠点とするアーティスト、Vagabon(本名:Laetitia Tamko)が2014年に自主リリースしたEP『Persian Garden』は、彼女の内省的で感情豊かな音楽の原点とも言える作品だ。DIY精神と、未完成の中に宿る強い表現意志が重なり、のちの彼女のキャリアに繋がる重要な一歩となっている。フォーク、インディーロック、ローファイな質感が融合したこのEPは、当時のアメリカDIYシーンの一端を感じさせながらも、Vagabon独自の視点で綴られる個人的な物語が印象的だ。
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ジャンルと音楽性
『Persian Garden』は、ローファイ・インディーロックを基調としながらも、フォークの繊細さとポストパンク的な冷たさを同時に孕んでいる。リズムはミニマルで、ギターやヴォーカルの距離感には親密さと孤独感が混在。多くの楽曲が自宅録音で制作されたこともあり、音に漂う粗削りさがかえってVagabonの感情の輪郭を鮮明にしている。彼女のソングライティングはこの時点ですでに高い完成度を誇っており、リスナーはその声に引き寄せられるように作品世界へと没入してしまう。
おすすめのトラック
- 「Cold Apartment Floors」
EPの中でも特に際立った楽曲。ジャングリーなギターと淡々とした歌声が、感情を抑えたまま綴る別れの記憶を映し出す。Vagabonがその後の作品で見せる構造美の萌芽を感じさせる、静かで強い一曲。 - 「Sharks」
比較的アップテンポで、ベースとドラムのリズムにややパンク的な勢いを感じる曲。歌詞には生きることの不安や社会への疑念が込められており、Vagabonの鋭い知性がうかがえる。 - 「Vermont II」
フォーク調のアレンジで、情景描写の豊かなリリックが魅力的。どこか郷愁を感じさせるメロディは、彼女の故郷と心の距離を測るような感覚を呼び起こす。 - 「Vermont」
儚くも芯のあるボーカルが重なる「Vermont」は、内省と静寂が共鳴する一曲。まるで記憶の断片を手繰るように進行し、シンプルな構成ながらも感情の奥深さに触れることができる。控えめなサウンドの中にこそ、彼女の誠実な表現力が滲み出ている一作。
アルバム総評
『Persian Garden』は、Vagabonのデビュー作という枠に留まらず、彼女のアーティストとしての核を見せる重要なEPだ。粗削りな録音や構成の中にこそ、彼女の「声」がもっともリアルに響いている。ジャンルの枠を越えた感性、詩的な表現、そして時に不器用ながらも誠実な自己開示——そのすべてが、この短いEPに凝縮されている。
この作品を聴くことで、後の『Infinite Worlds』や『Vagabon』の深さをより理解することができるだろう。インディーシーンの新たな地平を開いたひとつのマイルストーンとして、ぜひ多くのリスナーに触れてほしい1枚だ。