1979年、ニューヨークのアートロックシーンから放たれたTalking Headsの3rdアルバム『Fear of Music』は、混沌とした都市の不安とテクノロジーの進化に対する驚異を、音楽と歌詞の両面で表現したエッジの効いた傑作だ。前作『More Songs About Buildings and Food』に続き、ブライアン・イーノをプロデューサーに迎え、サウンドはさらに冒険的に、リズムはより複雑に、そして歌詞はパラノイアと知性に満ちていく。
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Amazon.co.jp: Fear of Music : Talking Heads: デジタルミュージック
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ジャンルと音楽性
『Fear of Music』は、ニューウェーブ、ポストパンク、アートロック、ファンクの要素が交錯する実験的な作品だ。ブライアン・イーノとのタッグによって、シンプルだったギター・ポップはより歪んだ質感を帯び、奇妙なリズムとシンセサイザーの導入によって、聴き手を都市の狂気やテクノロジーへの嫌悪と魅力のはざまへと誘う。ダンサブルでありながらも不安をかき立てるビートが全体を貫いている。
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おすすめのトラック
- 「I Zimbra」
アルバムのオープニングを飾るこの楽曲は、ドイツの詩人フーゴ・バルのダダ詩を使った歌詞にアフロビートを融合させた先鋭的ナンバー。エキゾチックなパーカッションと強烈なグルーヴは、のちの『Remain in Light』への布石となっている。 - 「Life During Wartime」
ポストアポカリプス的世界観を描いた代表曲であり、ライブでも定番となる一曲。「This ain’t no party, this ain’t no disco…」のフレーズで有名。ディストピアの中でのサバイバルを軽快に歌い上げる異様なバランス感覚が光る。 - 「Heaven」
混沌の中での静けさを表現する美しいバラード。ミニマルな構成と浮遊感あるボーカルが、楽園のようで不気味でもある「Heaven」の概念を揺さぶる。 - 「Cities」
ファンク色の強いビートに乗せて、世界の都市を次々と列挙していくリズミカルなナンバー。都市に住むことの興奮と不安、退屈を同時に描くデヴィッド・バーンの視点が痛快。 - 「Memories Can’t Wait」
錯乱したようなサウンドとヴォーカルが印象的なトラック。記憶の不確かさや過去に縛られる苦悩が、混濁した音像と共に迫ってくる。
アルバム総評
『Fear of Music』は、Talking Headsの持つ知的なアイロニーと不安定な感情が、サウンドとして完璧に結実した作品である。ポップでもロックでもない、しかし確かにダンサブルで、思索的でもある。都市生活者の神経症とパラノイアを音で体現したこのアルバムは、1979年という時代の空気を鋭く切り取りつつ、今なお現代のリスナーにも刺さる普遍性を持っている。混沌と不安に満ちた世界の中で、音楽がいかに新しい形で機能するのかを教えてくれる名盤だ。