Sleaford Modsのコンピレーションアルバム『All That Glue』(2020年リリース)は、彼らのキャリアを総括するような強烈な一枚だ。ノッティンガム出身のデュオが歩んできた軌跡を振り返りつつ、その核となる怒りと風刺、そして独特のミニマルなサウンドを改めて提示している。過去の楽曲を網羅しながらも、アルバム全体を通して現代イギリスの社会や労働者階級の現実を映し出す鏡のような内容に仕上がっており、入門編としてもベスト盤としても機能する作品である。
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ジャンルと音楽性
Sleaford Modsの音楽は、パンクの精神とヒップホップ的なリズム感を融合させたユニークなスタイルに支えられている。ビートは極限まで削ぎ落とされ、ドラムマシンとベースラインを主体とした無機質なサウンド。それに乗せられるのは、ジェイソン・ウィリアムソンの鋭く毒のあるスポークンワードだ。彼の発する言葉は罵倒や風刺、日常の不満とユーモアを同時に孕み、聴き手に強烈な印象を残す。『All That Glue』は、そんな彼らの社会的メッセージとストリート感覚が凝縮されたドキュメントのような作品だ。
おすすめのトラック
- 「Jobseeker」
Sleaford Modsを象徴する楽曲のひとつ。失業者の苛立ちと制度への不満を、皮肉と怒りを込めて吐き出す。リズムはシンプルだが、その言葉の力強さが圧倒的で、初めて聴く人にも強烈な印象を与える。 - 「Jolly Fucker」
シニカルかつ挑発的なタイトル通り、音楽業界や社会全体に対する嘲笑が詰め込まれたトラック。たった数分で彼らの姿勢を理解できる痛烈な一撃だ。 - 「Tied Up in Nottz」
地元ノッティンガムの日常を描きながらも、地方都市の閉塞感や退屈さをユーモラスに切り取った楽曲。シンプルなビートに乗る言葉の連打が、独特のリズム感を生み出している。 - 「B.H.S.」
大手企業BHSの倒産を題材にした楽曲。社会の不正や資本主義の矛盾を鋭くえぐるテーマ性が光る。ミニマルながらも、彼らがいかに現実に根ざした視点を持っているかを示す好例だ。 - 「Tweet Tweet Tweet」
SNS時代のコミュニケーションや情報過多を皮肉る一曲。リズムとフックの効いた言葉が中毒性を生み、ユーモラスでありながらも現代社会を批判的に捉えている。
アルバム総評
『All That Glue』は、Sleaford Modsのこれまでを振り返ると同時に、その音楽の核心を改めて強調する作品だ。華美なプロダクションや複雑な楽曲構成を徹底的に排除し、シンプルな音と直接的な言葉のみで成立している点が彼らの真骨頂である。パンクの反骨精神とヒップホップ的なリズム感を融合させた彼らのサウンドは、万人にとって聴きやすいものではないが、そのストレートなメッセージ性と社会に対する眼差しは唯一無二だ。『All That Glue』は、これからSleaford Modsに触れる人への最良の入口であり、既存のファンにとっても彼らの姿勢を再確認できる重要な一枚となっている。