1970年代末、UKパンクがその狂騒の頂点を迎える中、The Rutsは異彩を放つ存在だった。彼らのサウンドは、激しいパンクの攻撃性に、ダブやレゲエといったリズムの深みを融合させたもの。そのThe Rutsが1980年にリリースしたコンピレーションアルバム『Grin and Bear It』は、バンドの勢いと実験性、そして故Malcolm Owen(ヴォーカル)のカリスマ性を記録した貴重な作品だ。シングル曲、B面曲、ライブ音源などを網羅した本作は、短命に終わったThe Rutsの輝きを今に伝える重要なアーカイブである。
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ジャンルと音楽性
The Rutsは、基本的にはパンク・ロック・バンドでありながら、当時としては珍しくレゲエやダブの影響を大きく受けたバンドでもある。The Clashとも比較されるが、よりアンダーグラウンドかつラディカルな姿勢を貫いた点で彼らは独自のポジションを築いている。『Grin and Bear It』に収められたトラック群は、ハードでタイトなギターリフ、社会的なメッセージ、そしてリズムに対するこだわりが色濃く表れている。攻撃的なパンクの中に、ルードボーイ精神と音楽的探究心が同居しているのが最大の特徴だ。
おすすめのトラック
- 「Staring at the Rude Boys」
このアルバムの代表曲のひとつ。皮肉を込めたタイトルとダンサブルなビートが絶妙に融合し、The Rutsのポリティカル・パンクとしての側面が強く表れている。スカ・ビートとパンキッシュなギターが交差するこの曲は、80年代UKサブカルの空気を象徴するかのようだ。 - 「Love in Vain」
パンクでありながら、エモーショナルでどこか儚さも感じさせる楽曲。Malcolm Owenのヴォーカルは、切実で説得力があり、聴く者の心に刺さる。パンクにおけるバラード的な立ち位置にあるとも言える。 - 「Society」
短く、スピーディで、鋭いリリック。まさに70年代末の英国社会を撃ち抜くかのような鋭さ。The Rutsの政治的メッセージがシンプルに、しかし強烈に表現されている。 - 「West One (Shine on Me)」
メロディアスで内省的なこの曲は、バンド後期の成熟を感じさせる作品。Ruts D.C.への変化を予感させるような空気感が漂っている。 - 「H Eyes」
ドラッグ依存の暗い現実を突きつける鋭利なパンクナンバー。疾走するリズムと切り裂くようなギター、そしてマルコム・オーウェンの緊迫感あるボーカルが、社会的メッセージを直球で叩きつける。短い中にも怒りと悲哀が詰まった一曲。
アルバム総評
『Grin and Bear It』は、単なるB面集やライブ盤ではなく、The Rutsというバンドの全貌と奥行きを再評価するための鍵となる作品だ。彼らの短い活動期間の中で生まれたエネルギーと実験精神は、いまなお鮮烈に響く。特に、レゲエとパンクを境界なく行き来する柔軟さ、社会的メッセージの強さ、そしてMalcolm Owenというヴォーカリストの存在感は他のパンクバンドにはない魅力だ。
『Grin and Bear It』は、パンクの枠を超えて音楽に誠実であろうとしたバンドの、まさに“証言”とも言える1枚である。The Rutsを深く知りたい者にとっても、パンクの歴史を俯瞰する者にとっても欠かせないアルバムである。