The Milkshakesの『In Germany』は、1983年にドイツ限定でリリースされたライブ・アルバムであり、ガレージ・ロック再興の火付け役となったバンドの熱量をそのまま閉じ込めた希少な一枚だ。Billy Childishを中心に、1960年代のブリティッシュ・ビートやアメリカン・ロカビリーに強く影響を受けたサウンドを鳴らすThe Milkshakesは、当時のポスト・パンクやニュー・ウェーブ全盛の中において異彩を放っていた。このアルバムは、彼らがヨーロッパのライブハウスで巻き起こした“本物のロックンロール”の瞬間を追体験できる、マニア垂涎の記録である。
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ジャンルと音楽性
ジャンル的にはガレージ・ロック、ロカビリー、ブリティッシュ・ビートに分類されるが、The Milkshakesはこれらを独自のローファイ・プロダクションと荒削りな演奏で再構築している。エレキギターのジャングリーなリフ、シンプルながらタイトなドラム、そしてBilly Childishのラフで熱のこもったボーカルが交わり、まるで60年代の小さなクラブで踊っているかのような臨場感を生み出す。アルバム全体を通して「熱」「衝動」「即興性」が貫かれており、音楽としての完成度よりも、その“勢い”が魅力となっている。
おすすめのトラック
- 「If I Get You」
60年代ビートポップのスピリットをそのまま蘇らせたような一曲。ラフでローファイなサウンド、ビリー・チャイルディッシュのざらついたボーカル、そしてキャッチーなギターリフが絶妙に絡み合い、数分間でリスナーを小さなガレージクラブに引き込むような臨場感を生む。 - 「She’s Some Kind of Girl」
ビートルズ直系のポップセンスとガレージロックの粗削りなエネルギーが融合した一曲。リバーブが効いたギターと跳ねるようなリズム、そしてどこか甘酸っぱいメロディが、恋のときめきをシンプルかつストレートに描き出す。 - 「Comes Along Midnight」
深夜の街角に響くローファイなガレージビートが魅力の一曲。シンプルながらもタイトなドラムとジャングリーなギター、そしてビリー・チャイルディッシュのダミ声ボーカルが絡み合い、不穏さと興奮が入り混じるミッドナイトムードを演出。クラシックなロックンロールのスピリットが濃厚に感じられる、通好みのナンバー。 - 「One Day You Die」
タイトル通りの皮肉とユーモアをローファイ・ガレージビートに乗せて突きつけるパンキッシュな一曲。粗削りなサウンドとストレートな歌詞が、60年代のビート・バンドへのオマージュと反骨精神を同時に体現しており、まさに彼ららしい“痛快ロックンロール”。
アルバム総評
『In Germany』は、The Milkshakesというバンドの真骨頂をライブという最も純粋な形で記録したアルバムであり、ガレージ・ロック好きなら一度は耳にしておくべき作品だ。完成度の高いスタジオ録音とは一線を画し、“その場の空気”を最大限に活かした記録としての魅力がある。ドイツ限定盤というレアリティも手伝い、コレクターズアイテムとしての価値も高いが、それ以上に、時代や流行に左右されない音楽の“衝動”を感じさせてくれる。Billy ChildishのDIY精神と、時代錯誤的とも言える徹底した60年代愛が詰まったこの一枚は、ガレージロックの精神を体現するアルバムとして、今なお輝き続けている。