マンチェスター出身のベテランバンド、A Certain Ratio(ACR)の『ACR:MCR』は、彼らの集大成とも言える作品です。このタイトルは、バンド名の略称(ACR)と彼らのホームタウンであるマンチェスター(MCR)を組み合わせたものであり、彼らのルーツへの敬意と、現在進行形の創造性を同時に示しています。ポストパンク、ファンク、ディスコ、アフロビート、エレクトロニクスといった多様なジャンルを自在に横断し続けてきた彼らのサウンドは、本作においても健在。キャリアの円熟期を迎えたバンドの、遊び心と実験精神、そして強靭なグルーヴが詰まった傑作です。
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ジャンルと音楽性
A Certain Ratioの音楽性は、単なるポストパンクの枠には収まらない、極めて独創的なものです。彼らは、ジョイ・ディヴィジョンやファクトリー・レコードの系譜にありながらも、1970年代後半からファンクやディスコのリズムを取り入れ、独自のアシッド・ファンク・サウンドを確立しました。本作『ACR:MCR』では、その核となるファンキーなベースラインとタイトなドラムのリズムセクションに加え、モダンなエレクトロニクスやシンセサイザーのテクスチャーが加わり、さらに進化しています。彼らの音楽は、反復するグルーヴとミニマルな構造を持ちながらも、予測不能な楽器のインタープレイによって、常に新鮮な聴覚体験を提供します。
おすすめのトラック
- 「Spirit Dance」
アルバムのグルーヴを象徴するトラックの一つで、ファンクとアフロビートの要素が色濃く出たダンスナンバーです。繰り返される催眠的なリズムと、軽快なギターのカッティング、そしてパーカッションのレイヤーが、文字通り「魂のダンス」を誘うような高揚感を生み出しています。 - 「B T T W 90」
リズミカルで実験精神に満ちたこの曲は、ACRの持つ電子音楽やニューウェーブへの傾倒を示すトラックです。反復するビートとシンセサイザーの複雑なパターンが特徴的で、初期のファクトリー・レコード時代を彷彿とさせるクールでメカニカルなムードを漂わせています。 - 「Good Together」
ポジティブなエネルギーに満ちた、明るいファンク・チューンです。グルーヴィーなベースラインとホーンセクションの華やかなアレンジが絡み合い、バンドの持つディスコ〜ソウル的な側面を強く感じさせます。タイトなアンサンブルが「一緒にいることの素晴らしさ」を音で表現しています。 - 「Funky Heaven」
タイトルが示す通り、この曲はACRのファンクネスが最高潮に達したトラックです。強烈なベースライン、カッティングギター、そしてホーンの爆発力が一体となり、まさしく「ファンキーな天国」のような高揚感を生み出しています。彼らが長年追求してきたダンスグルーヴの究極形の一つと言えるでしょう。
アルバム総評
『ACR:MCR』は、A Certain Ratioが今なお第一線で活躍し、進化し続けていることを証明する強力な作品です。彼らは過去の栄光に頼ることなく、常に新しいリズム、テクスチャー、アイデアを取り入れ、独自のサウンドを更新しています。ポストパンクの硬質な感覚と、ファンクの解放的なリズムが絶妙にブレンドされた本作は、ダンスミュージックとしての機能性と、アートロックとしての実験性を兼ね備えています。長年のファンはもちろん、ACRのサウンドに初めて触れる若いリスナーにも、彼らの奥深い世界観と強烈なグルーヴを体験していただきたい一枚です。



