伝説的プロデューサーKrustが長年の進化と探求を経て放つ、音の深層を突き詰めた野心作『Irrational Numbers, Vol. 4』。クラブ・ミュージックの枠を越え、哲学的とも言える構築美を携えたこのアルバムは、リスナーに「音を聴く」という体験そのものを再定義させる。ドラムンベースの既成概念に挑みながら、未知への扉を開くスピリチュアルでサイケデリックな旅へようこそ。
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ジャンルと音楽性
本作におけるジャンルは一言で表すなら「アートとしてのドラムンベース」。ただし、いわゆるラガ・テイストやジャンプアップ系のそれではなく、ポスト・ジャンル的な実験精神が前面に出ている。Krustらしいディープでミニマリスティックなベースライン、緊張感を持ってうごめくブレイクビーツ、そして時に静寂がもたらす美的余白──その全てが、エレクトロニック・ミュージックにおける「構築と崩壊」をテーマに編まれている。
Krustは90年代ブリストル・サウンドの中核にいた人物であり、ReprazentやFull Cycleでの活動を通じてジャンルの成長に多大な影響を与えた。『Irrational Numbers, Vol. 4』はその集大成とも言える作品であり、同時にさらなる次元へのステップでもある。
おすすめのトラック
- 「Angles」
Krustの美学が凝縮された知的かつミニマルなドラムンベーストラック。鋭角的なリズムと空間を巧みに操るサウンドデザインが、まるで音の幾何学模様のように展開する。じわじわと精神に入り込む構築美が光る、静かなる衝撃作。 - 「Jazz Note II」
実験性とジャズの流動性が交差する一曲。滑らかなコード進行と不穏なビートが共存し、リスナーを心地よくも緊張感のある音の迷路へと誘う。クラシカルでいて未来的、深く潜るためのドラムンベース。 - 「C. 21st Century」
近未来の都市を彷徨うような緊迫感と静けさが共存する異色のドラムンベース。鋭利なリズムと浮遊感のあるサウンドスケープが、21世紀的な混沌と秩序を同時に描き出す。聴くほどに深まる知覚の旅。 - 「Coded Language (feat. Saul Williams)」
詩人Saul Williamsのスピリチュアルかつ鋭いスポークンワードと、Krustの重厚かつ未来的なビートが融合した名曲。言葉と音がぶつかり合いながらも共鳴し、ドラムンベースを超えた哲学的なサウンド体験を生み出している。
アルバム総評
『Irrational Numbers, Vol. 4』は、ダンスミュージックでありながら哲学的思考を感じさせる稀有な作品だ。テンポ感やリズムよりも「感覚と思考の解放」に重きが置かれており、まさに“聴く瞑想”といった趣。クラブトラックというよりもアート作品としての完成度が高く、既存の音楽的枠組みを超えた場所に立っている。
Krustはこの作品で、「音とは何か」「構築とは何か」「沈黙すら音楽である」というテーマを音そのもので語っている。深く、鋭く、そしてどこまでも自由なアルバムである。