1991年にリリースされたThe Crampsの『Look Mom No Head!』は、サイコビリーというジャンルの枠を広げ、さらに過激かつ官能的な世界観を押し広げた作品だ。ガレージロックの粗削りなエネルギー、ロカビリーの跳ねるリズム、そしてホラーやエロスを融合させた独自の美学が、全編にわたって炸裂している。The Cramps特有の毒気とユーモアは健在で、リスナーを一瞬で彼らのアンダーグラウンドなサーカスに引きずり込む。
ジャンルと音楽性
このアルバムはサイコビリーを核に、ガレージロック、パンク、そして50年代ロカビリーのエッセンスを大胆にミックスしている。サウンドは生々しく、Lux InteriorのワイルドなボーカルとPoison Ivyのスリリングなギターが中心。ビートは跳ねていながらどこか危うく、リズムが崩壊する寸前のスリルを楽しませてくれる。特に今作ではブルースやスワンプロック的な要素も見え隠れし、The Crampsの音楽的冒険心が随所に感じられる。
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おすすめのトラック
- 「Dames, Booze, Chains and Boots」
アルバム冒頭を飾るこの曲は、危険なナイトライフを描いたかのようなワイルドなロカビリービートと、Luxのねっとりとしたヴォーカルが絶妙なバランスを見せる。 - 「Two Headed Sex Change」
衝撃的なタイトルとともに、歪んだギターと跳ねるベースラインが強烈。The Crampsらしい怪奇でセクシャルなテーマを、ジョークと本気の境界線で描く。 - 「Blow Up Your Mind」
ガレージサウンド全開で、サイケデリックなギターが飛び交う1曲。脳天に響くようなサウンドで、アルバム中でも異彩を放つトラックだ。 - 「I Wanna Get In Your Pants」
タイトル通りストレートで過激な歌詞だが、バンドの遊び心とロックンロールスピリットが凝縮された名曲。腰を揺らすビートと、挑発的なムードがたまらない。 - 「Eyeball In My Martini」
ホラーとユーモアが絶妙に絡み合った一曲。スラップベースのビートに不気味なギターリフが絡み、リリックはカルト映画のワンシーンを切り取ったような奇妙な世界観を描く。サイコビリーの真骨頂ともいえるグルーヴと、独特のグロテスクな遊び心が存分に詰まったナンバーだ。
アルバム総評
『Look Mom No Head!』は、The Crampsが築き上げたサイコビリーというジャンルの進化形を見せつける1枚だ。単なるホラー趣味やロカビリーの焼き直しに留まらず、官能性、暴力性、ユーモアを兼ね備えたサウンドスケープを創出している。Lux InteriorとPoison Ivyのコンビが放つ化学反応は今作でも健在で、その異常なまでのエネルギーに圧倒されるだろう。聴き終わった後には、狂気と快楽が紙一重で共存するThe Crampsの魅力に取り憑かれてしまうはずだ。