弱冠19歳のシンガーソングライター、Kami Kehoe（カミ・キーホー）が満を持してリリースしたアルバム『DRAMA QUEEN』は、彼女のアーティストとしてのアイデンティティを確立する野心的な作品です。前作EP『fun house』で示したポップ・パンクの衝動性はさらに進化し、より洗練されたプロダクションと複雑な感情表現が加わりました。このアルバムは、タイトルが示す通り、自身を「ドラマ・クイーン」と自嘲的かつ誇らしげに定義することで、若者が経験する葛藤、過剰な期待、そして自己受容のプロセスを、エネルギッシュなロックサウンドに乗せて描いています。内面をさらけ出し、聴き手に強烈な共感を呼び起こす、現代のオルタナティブ・ロックシーンにおける重要な一作です。
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ジャンルと音楽性
『DRAMA QUEEN』の音楽性は、2000年代初頭のエモやポップ・パンク（Avril Lavigne、Paramore）からの影響を色濃く受け継ぎながらも、現代的なオルタナティブ・ポップ（Olivia Rodrigo、Billie Eilish）の要素を巧みに取り入れています。特徴的なのは、Kami自身がドラマーであることに裏打ちされた、強烈でタイトなリズムセクションです。ギターリフはエッジが効いており、クリーンなトーンとヘヴィなディストーションを楽曲に応じて使い分け、感情の起伏を表現しています。彼女のボーカルは、甘さと力強さを兼ね備え、怒り、悲しみ、歓喜といった多様な感情を、ドラマチックに歌い上げています。全体として、非常にダイナミックで感情の振れ幅が大きいサウンドスケープを構築しており、聴き手を飽きさせません。
おすすめのトラック
このアルバムの核となる、個性的で魅力的な4曲をご紹介します。
・「love songs vol.1」 アルバムの中でも内省的な側面を深く掘り下げたトラックです。キャッチーなメロディの中に、皮肉や傷つきやすさが同居するKami Kehoeらしい楽曲。ロマンスや人間関係の理想と現実のギャップを、ストレートかつメランコリックなボーカルで表現しており、聴く者の共感を誘います。
・「fun house」 前作EPのタイトル曲であり、今作でもその爆発的なエネルギーは健在です。内面のカオスや不安定な精神状態を「お化け屋敷」と例えながら、それを軽快なポップ・パンクのリズムに乗せて昇華しています。ライブ映えするアッパーな曲調で、彼女のアグレッシブな一面を象徴しています。
・「ily bby」 タイトル通り、「I love you baby」というシンプルな愛情を歌った、アルバムの中では比較的テンダーな楽曲です。しかし、ただ甘いだけではなく、愛することへの不安や、脆い関係性への問いかけも含んでおり、Kami Kehoe特有のダークなユーモアが滲んでいます。
・「hate ur f**king self (Album Version)」 既にEPでも披露され、熱狂的な支持を集めた楽曲のアルバムバージョンです。アコースティックな質感から一転、終盤でエモーショナルに爆発するバンドサウンドが、自己嫌悪と複雑な感情の起伏を表現。生々しい感情の叫びが胸を打つ、アルバムのクライマックスの一つです。
アルバム総評
『DRAMA QUEEN』は、Kami Kehoeが単なるティーンのポップスターではなく、確固たる信念を持つロックアーティストであることを証明した作品です。自己の弱さや葛藤を隠さず、それを力に変えて表現する彼女のスタイルは、多くのリスナー、特に若年層に強い共感をもたらすでしょう。サウンド面でも、ポップ・パンク、グランジ、オルタナティブ・ポップの要素を高いレベルで融合させ、多様な音楽的背景を持つ層にアピールできる普遍的な魅力を持っています。今後の彼女の活動、そして「ドラマ」の続きが非常に楽しみになる、傑作アルバムです。
