ABCの『Beauty Stab』は、1983年にリリースされたイギリスのバンドABCの2作目のスタジオ・アルバムです。この作品は、デビューアルバム『The Lexicon of Love』(1982年)の大成功を受けて発表されましたが、内容的には全く異なるアプローチを取りました。『The Lexicon of Love』はエレガントでロマンティックなポップアルバムで、洗練されたプロダクションとキャッチーなメロディが特徴でした。一方で、『Beauty Stab』はよりダークで攻撃的なトーンを持ち、ギターを前面に押し出したロック志向の強い作品です。この急激な音楽スタイルの変化は、当時のファンや批評家に驚きを与え、商業的にも前作ほどの成功を収めることはありませんでしたが、その独自性と大胆さから現在では再評価されています。
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アルバムの背景
ABCは、フロントマンのマーティン・フライを中心に、1980年代初頭のニュー・ロマンティック・ムーブメントの一環として登場しました。『The Lexicon of Love』の成功によって彼らは一躍スターダムにのし上がり、その後の作品にも大きな期待が寄せられていました。しかし、バンドは意図的に前作のスタイルを踏襲せず、より生々しいロックサウンドへと転換を図りました。この変化は、主に1980年代の社会情勢やポスト・パンクからの影響を受けたものであり、より攻撃的で直接的な表現を求めた結果と言えます。
『Beauty Stab』のプロデューサーは、デビュー作で手を組んだトレヴァー・ホーンではなく、バンド自身とギタリストのゲイリー・ランガンが担当しました。ホーンのプロダクションは、ストリングスや豪華なオーケストラアレンジが特徴的でしたが、『Beauty Stab』ではそのような要素を極力排除し、ギター、ベース、ドラムといったロックバンドの基本的な編成に焦点を当てています。このシンプルで直線的なアプローチは、バンドの新たな方向性を明確に示しています。
サウンドとテーマ
『Beauty Stab』の最大の特徴は、ギターを中心としたロックサウンドへのシフトです。前作の華やかでポップなシンセサウンドとは異なり、このアルバムではディストーションギターと攻撃的なリズムセクションが前面に出ており、80年代初頭のポスト・パンクやニュー・ウェイブの影響が感じられます。また、歌詞も前作で扱われていた恋愛や感情の繊細さから、より社会的・政治的なテーマへとシフトしています。例えば、「That Was Then But This Is Now」や「King Money」では、消費主義や社会的不平等に対する批判が描かれており、イギリスの政治的・経済的な状況を反映しています。
一方で、アルバム全体のトーンはダークであり、やや悲観的な視点が感じられます。これまでの華やかで希望に満ちたポップミュージックから一転し、より厳しい現実に直面した視点が描かれている点も注目すべきポイントです。タイトルにある「Beauty Stab」という言葉自体が、美しさの中に潜む暴力や痛みを暗示しており、これがアルバム全体のテーマとして貫かれています。
商業的反応と評価
『Beauty Stab』は、前作に比べて商業的には成功を収めることができませんでした。アルバムはイギリスのアルバムチャートでトップ20には入ったものの、前作ほどの大ヒットには至りませんでした。アメリカ市場でも成功は限定的で、批評家からの評価も賛否両論でした。多くのファンや評論家は、前作のポップでロマンティックなスタイルを期待していたため、ギター主導のロックサウンドに対して戸惑いを感じたようです。
しかし、年月を経て『Beauty Stab』はその革新性と大胆さから再評価されるようになりました。特に、ABCが一つの音楽スタイルに固執せず、自分たちの音楽的ビジョンを大胆に追求した点は、後のミュージシャンにも影響を与えています。また、現在では、このアルバムが80年代初頭の音楽シーンにおける多様性を示す一例として位置付けられています。
ジャンル
『Beauty Stab』のジャンルは、主にポスト・パンクやニュー・ウェイブに分類されますが、デビューアルバムとは異なり、ロックやパンクの要素が強く取り入れられています。ギターリフの強調や、直接的でメッセージ性の強い歌詞は、80年代のニュー・ウェイブの典型的な特徴を持ちながらも、よりアグレッシブなロックの側面が色濃く反映されています。
おすすめの曲
- 「That Was Then But This Is Now」
アルバムのリードシングルで、アルバム全体を象徴するようなギター主導のエネルギッシュな楽曲です。ABCの新しい音楽的方向性を最も強く打ち出した曲の一つです。 - 「King Money」
経済的不平等や資本主義への批判をテーマにした楽曲で、鋭い歌詞とパワフルなギターサウンドが特徴的です。アルバム全体のメッセージ性を強く感じさせる一曲です。 - 「Bite the Hand」
攻撃的なギターと社会的なテーマを持つこの曲も、アルバムの中で特に激しいエネルギーを持っています。ポスト・パンク的な要素が強く、バンドの新しい一面を感じさせる楽曲です。
『Beauty Stab』は、ABCの音楽的な多面性を示す重要な作品であり、ロックやニュー・ウェイブのファンにとっても聴き応えのある一枚です。