David Bowieの1973年作『Aladdin Sane』は、『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』の大成功を受けてリリースされたアルバムであり、ボウイが“Ziggy”というキャラクターをさらに拡張しつつも、より退廃的で実験的な要素を取り込んだ作品です。タイトルは“a lad insane(狂気の若者)”という言葉遊びで、彼自身のツアー中の経験や、急速に拡大する名声への不安や混乱を反映しています。グラムロックの華やかさに加えて、ジャズやアバンギャルドの要素も混ざり合い、ボウイの多面的な音楽性が炸裂したアルバムといえるでしょう。
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ジャンルと音楽性
『Aladdin Sane』は一言で言えば「グラムロックの枠を押し広げた作品」です。ギターリフ主導のロックンロールが基盤にありながらも、マイク・ガーソンの狂気的なピアノ演奏が大きな特徴となっており、ロックとアートの境界を曖昧にしています。さらにブルースやソウル、キャバレー風の実験的サウンドまで散りばめられ、ただの続編ではなく、Ziggy時代の混沌を音楽的に再構築したような内容です。キャッチーでありながらも、同時に不安定で不穏な空気を漂わせる点が、このアルバムを唯一無二の存在にしています。
おすすめのトラック
- 「Watch That Man」
アルバムの幕開けを飾る楽曲で、ローリング・ストーンズを思わせる荒々しいロックンロール。ミックスではボウイの声がやや埋もれているように聴こえ、その分バンド全体の勢いが強調される、ライブ感あふれる一曲です。 - 「Aladdin Sane (1913–1938–197?)」
このアルバムを象徴する実験的なタイトル曲。マイク・ガーソンによる不協和音と奔放なピアノソロは、クラシックとジャズの間を行き来するようで、まるで狂気のカタルシスを描き出しています。戦争の時代を示唆する副題も相まって、政治性と芸術性を兼ね備えた異色のナンバー。 - 「The Jean Genie」
アルバムの中でも最も有名な楽曲のひとつで、シンプルかつ中毒性のあるブルースロック。ストリート感と都会的な退廃を同時に感じさせ、ボウイのカリスマ性をストレートに味わえる代表曲です。 - 「Lady Grinning Soul」
アルバムのラストを飾る美しいバラード。マイク・ガーソンの耽美的なピアノとボウイの妖艶なボーカルが絡み合い、グラムロックの枠を超えたロマンティックで幻想的な世界を描きます。アルバムを閉じるにふさわしい余韻の残る名曲です。
アルバム総評
『Aladdin Sane』は、David Bowieが単なる「グラムロックのスター」ではなく、時代を切り拓く実験的アーティストであることを決定づけた作品です。前作『Ziggy Stardust』のような明快なコンセプトアルバムではなく、より個人的で断片的な視点から描かれているため、混沌や不協和音を多く孕んでいます。しかしその雑多さこそがボウイの当時の姿をリアルに映し出し、ロック史に残る唯一無二の輝きを放っています。退廃、実験、美しさ、そしてロックのダイナミズムが同居した『Aladdin Sane』は、ボウイのキャリアにおいても重要な通過点であり、聴くたびに新たな発見をもたらす濃密な名盤です。