1982年にリリースされたFun Boy Threeのセルフタイトル・アルバム『Fun Boy Three』は、ポスト2トーン・スカの流れの中で生まれた、異色かつ個性的な作品である。The Specialsの中心メンバーだったテリー・ホール、ネヴィル・ステイプル、リンヴァル・ゴールディングの3人が新たに結成したこのユニットは、スカの勢いを残しながらも、よりミニマルでダーク、実験的なポップ・サウンドを打ち出した。時に不気味で、時に軽妙、そして社会的風刺も織り交ぜられた独自の音楽性が、1980年代初頭のUKニューウェーブ・シーンの中でも強烈な存在感を放っている。
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ジャンルと音楽性
本作はスカを出発点にしながらも、ニューウェーブ、ポストパンク、そして奇妙なフォークや実験的ポップの要素を混在させた作品である。The Specials時代のブラスセクションを排し、より素朴で乾いたサウンドを採用することで、メンバー3人のヴォーカルやリズム感を前面に押し出しているのが特徴だ。メロディは一見シンプルながら、独特のアレンジやユーモラスなコーラスワークが印象的で、聴き進めるごとにクセになる不思議な魅力を放つ。無骨さとポップ感覚が同居した、他に代えがたい音楽性を築き上げている。
おすすめのトラック
- 「The Lunatics (Have Taken Over the Asylum)」
アルバムの代表曲であり、鋭い社会批判をユーモラスに描き出したナンバー。シンプルなリズムと反復するフレーズに乗せて、「狂人が支配している世界」というテーマを歌い上げるそのセンスは痛烈かつ風刺的だ。 - 「It Ain’t What You Do (It’s the Way That You Do It)」
Bananaramaとのコラボでシングルとしても成功したポップな楽曲。リズミカルで軽快なビートと掛け合いコーラスが耳に残る、まさにニューウェーブ期のダンス・フロアを象徴する一曲。 - 「Sanctuary」
どこか陰鬱でダークな空気を漂わせる曲で、Fun Boy Threeの持つ実験性を感じさせる。シンプルな構成ながらも、ヴォーカルの絡み合いが不安定で奇妙な世界観を構築している。 - 「Alone」
物悲しくメランコリックな空気をまとった楽曲。極端に削ぎ落とされたアレンジが、むしろ歌詞やヴォーカルの存在感を際立たせており、アルバムの中でも内省的なハイライトとなっている。 - 「The Telephone Always Rings」
後のシングルにもつながる彼らのポップな側面を示す一曲。遊び心のあるリズムとクセになるフレーズが印象的で、アルバム全体のバランスに軽やかさを与えている。
アルバム総評
『Fun Boy Three』は、スカの熱気を離れ、より実験的かつミニマルなポップへと踏み込んだ転換点的な作品である。その音楽性は時に聴き手を戸惑わせるが、風刺とユーモアを織り交ぜた歌詞、素朴で荒削りながらもクセになるサウンドは唯一無二だ。The Specialsからの流れを受けつつも、より個人的でダークな感性を打ち出したこのアルバムは、ニューウェーブのカルト的名盤として語り継がれている。後に続く『Waiting』での成熟を予感させるとともに、1980年代初頭のUKシーンの多様性を象徴する重要な記録となっている。