Bush Tetras『Rhythm and Paranoia: The Best of Bush Tetras』は、1980年代初頭のNYポストパンク・シーンにおいて独自の存在感を放ったバンドの軌跡を総括するベストアルバムだ。彼女たちが築いたのは、アングラでアートな匂いを纏いつつも、肉体的なグルーヴと挑発的なリズムを併せ持つサウンド。そのすべてをここに凝縮した本作は、ポストパンク、ノーウェーブ、そして初期オルタナティブの橋渡し的作品としても重要な位置を占めている。リマスターによる生々しい音像と、当時の焦燥と熱気をそのまま封じ込めたような衝動が共存する、まさに“リズムと偏執狂”の名を冠するにふさわしい一枚だ。
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ジャンルと音楽性
Bush Tetrasの音楽は、パンクの攻撃性とファンクのリズム感、そしてアートロック的な冷たさが融合したニューヨーク的ポストパンクの典型だ。Pat Placeのざらついたギターは、旋律というよりもリズムの一部として機能し、Dee Popのドラムが刻むタイトなビートが全体を牽引する。Cynthia Sleyのヴォーカルは感情を爆発させるというより、無機質なトーンで社会への違和感や怒りを冷ややかに表現する。全体として、彼女たちの音楽は“ダンスできる混沌”とも言える独特のグルーヴを形成しており、80年代NYのアートパンク・エネルギーを余すところなく伝えている。
おすすめのトラック
- 「Too Many Creeps」
Bush Tetras最大の代表曲にして、NYアンダーグラウンドのアンセム。ファンクのリズムに鋭いギターが絡み、Cynthiaのクールなヴォーカルが街の不条理を吐き出す。冷たくも踊れるこの感覚こそ、彼女たちの真髄。 - 「Snakes Crawl」
歪んだギターとスラップ気味のベースが絡む、妖しさ漂う一曲。サイケデリックかつ緊張感のあるグルーヴは、まさに“都市の闇”を音で描いたかのようだ。 - 「You Taste Like the Tropics」
異国情緒と退廃をミックスしたサウンドが特徴。パンクという枠に収まりきらない彼女たちの柔軟なアレンジセンスが光る。 - 「You Don’t Know Me」
切り裂くようなギターリフとリズムの緊張感が際立つ、ポストパンクの真髄を感じさせる一曲だ。80年代初期NYのアンダーグラウンドの荒々しいエネルギーが凝縮されており、タイトル通り“わたしを分かっていない”という疎外のメッセージを鋭く響かせる名曲。 - 「Things That Go Boom in the Night」
後期の彼女たちの成熟を感じさせるトラック。ダークでありながら洗練されたサウンドが、バンドの進化を象徴している。
アルバム総評
『Rhythm and Paranoia』は、Bush Tetrasというバンドの核心——すなわち、女性ならではの視点と鋭利なアングルで描かれる社会への違和感、そしてそれを踊れるリズムに昇華する力——を余すところなく伝えるベスト盤だ。彼女たちは商業的成功こそ大きくなかったが、その影響は数多のポストパンク、オルタナ、インディロック・アーティストに受け継がれている。今聴いても古びないサウンドは、むしろ現代のダークウェイヴやポストパンク・リバイバルとも共鳴する。
まるで錆びた街の片隅で鳴る、グルーヴィーなノイズ。Bush Tetrasは“リズムと偏執狂”という名のアートを、40年越しに再び蘇らせた。