イギリスのパンク・ロックを語るうえで欠かせない存在、Buzzcocks。その代表的なコンピレーション・アルバム『Singles Going Steady』(1979年リリース)は、彼らのシングル曲を時系列順に収めた、まさにバズコックスの魅力を一望できる決定版です。このアルバムはパンクの攻撃性と、ポップスの親しみやすさを絶妙にブレンドし、「メロディック・パンク」というジャンルを先取りした存在でもあります。
Buzzcocksはセックス・ピストルズに代表されるアナーキーなパンクとは一線を画し、もっとパーソナルでロマンチック、そして傷つきやすい感情をパンクというフォーマットにぶつけたバンドです。楽曲のほとんどが3分以内の短さで、フックの効いたメロディと切実な歌詞が怒涛のように押し寄せます。ピート・シェリーの高音でやや鼻にかかったヴォーカルは、一度耳にすれば忘れられない個性です。
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ジャンルと音楽性
ジャンルとしてはポップ・パンク、ニューウェーブ、メロディック・パンク、ポスト・パンクの要素が混ざっており、ラモーンズのストレートなパンクに比べ、より叙情的でリズムに遊びがあるのが特徴です。リズミカルなギターカッティングや、間を活かしたアレンジも光ります。
おすすめのトラック
- 「Ever Fallen in Love (With Someone You Shouldn’t’ve)」
Buzzcocks最大のヒットであり、恋愛の苦しさを直球で歌った名曲。キャッチーなギターとリズムが炸裂し、エモーショナルなヴォーカルが胸を打ちます。 - 「What Do I Get?」
疾走感とポップさを併せ持った、まさにバズコックスの代名詞的ナンバー。リフとサビの一体感が心地よく、ライブでも人気の高い楽曲です。 - 「Orgasm Addict」
センセーショナルなタイトルに負けない攻撃的な曲調。ユーモアと皮肉が同居する歌詞は、パンクの精神を体現しています。 - 「Love You More」
たった90秒で聴く者を虜にする究極のショート・ラブソング。パンチのある展開と繰り返し聴きたくなる中毒性を持っています。 - 「Everybody’s Happy Nowadays」
軽快なギターポップに乗せて、現代社会の空虚さを皮肉たっぷりに描いた名曲。明るいメロディと裏腹に、虚しさがじんわり沁みるパンク・クラシックです。
総評
『Singles Going Steady』は、Buzzcocksがいかにパンクの中で独自のポジションを築いたかを如実に示す作品です。怒りや不満をエネルギー源としつつも、その表現方法は極めてポップであり、リスナーの心にスッと入り込んできます。
シンプルでキャッチーな音楽のなかに、普遍的な感情が詰まっているこのアルバムは、1970年代のパンクに初めて触れる人にも、長年のファンにもおすすめできる一枚です。Buzzcocksの名曲たちは、今なお色褪せることなく、現代のインディー・ロックやエモ、パワー・ポップにも多大な影響を与え続けています。