1980年代の日本のロックシーンに突如として現れた、異彩を放つガールズバンド、ZELDA。1987年発表の本作は、パンクの衝動とニューウェーブの知性、そして日本の伝統的な感性が融合した、まさに「C-ROCK」(シノワズリ・ロック)という独自のジャンルを確立した大傑作です。高度な演奏技術と、高橋佐代子の哲学的な歌詞が織りなすサウンドは、今なお色褪せない独特の輝きを放っています。
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ジャンルと音楽性の特徴
本作は、バンドが掲げたC-ROCK(シノワズリ・ロック)というコンセプトを体現しています。これは、ニューウェーブやポストパンクといった欧米のロックサウンドを基盤としつつ、東洋的な音階やリズム、歌詞のテーマを取り入れたZELDA独自のジャンルです。
実験性と完成度の両立: 複雑なリズムチェンジや構築的なアレンジが施されていますが、それが難解さに陥らず、ポップなフックとキャッチーさを保っている点が、本作の驚くべき完成度を示しています。
ポストパンクとニューウェーブの融合: ジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーに通じるような、ベースラインを主体としたトリッキーで躍動的なリズムと、緊張感のあるギターリフが特徴的です。特に小嶋さちほによるベースラインは楽曲の核となり、全体にプログレッシブな要素を与えています。
東洋的なメロディと歌詞: 高橋佐代子の書く歌詞は、内省的で哲学的な世界観を持ちつつ、日本の古典や東洋思想を思わせる詩的な表現が多用されています。石原富紀江の作曲によるメロディには、日本の歌謡曲や雅楽にも通じるような独特の哀愁と美しさが混在し、C-ROCKの独自性を際立たせています。
おすすめのトラック
- 「夜の時計は12時」
アルバムのオープニングを飾る、静謐で緊張感のあるトラック。タイトなリズム隊と、高橋佐代子のどこか冷たいウィスパーボイスが、聴く者を一気にZELDAの世界観へと引き込みます。東洋的なムードと都会的な冷たさが共存する、C-ROCKの導入として完璧な楽曲です。 - 「Electric Sweetie」
躍動的でファンキーなベースラインが楽曲全体をリードする、初期ニューウェーブのエネルギーを感じさせるナンバー。キャッチーなサビと、実験的なサウンドエフェクトが交錯し、ZELDAの持つアグレッシブな側面とポップなセンスがバランス良く表現されています。 - 「風の景 – Mind Sketch -」
インストゥルメンタルに近い、内省的で実験的な楽曲。タイトルが示す通り、風景をスケッチするように音で情景を描き出します。ここではリズムよりもテクスチャーやムードが重視され、バンドの持つ芸術性の高さを感じることができます。 - 「時計仕掛けのせつな」
メロディの美しさが際立つ、哀愁漂う楽曲。しかし単なるバラードではなく、タイトルの通りどこか機械的で歪な美しさを持つアレンジが施されており、「せつなさ」をZELDA流に再定義しています。高橋の繊細なボーカルが聴きどころです。
アルバム総評
ZELDAの『C-ROCK WORK』は、日本のロック史における過小評価されがちな大傑作です。1980年代の洋楽ロックに影響を受けつつも、そのスタイルを完全に消化し、独自の「東洋的なロック」へと昇華させることに成功しました。高度な演奏力と、哲学的なテーマ、そしてユニークな美意識が融合したサウンドは、今聴いても新鮮で、他の追随を許しません。当時のシーンを牽新するバンドの一つとして、またガールズ・バンドの可能性を大きく広げた金字塔として、全てのロックファンに聴いてほしいアルバムです。




