2003年にリリースされたMetricのデビューアルバム『Old World Underground, Where Are You Now?』は、カナダのインディー・シーンから飛び出した彼らが、一気に国際的な注目を集めるきっかけとなった作品である。都会的なクールさと、パンキッシュな衝動、そしてシンセが放つ煌めきが絶妙にブレンドされたサウンドは、同時代のポストパンク・リバイバルとも共鳴しつつ、Metricならではの独自の個性を刻み込んでいる。エミリー・ヘインズの官能的かつアイロニカルなボーカルと、軽快でいて鋭いリズムは、このアルバムを単なるデビュー盤以上の存在へと押し上げている。
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ジャンルと音楽性
本作の基盤にあるのは、ポストパンク・リバイバル、ニューウェーブ、そしてエレクトロニカを交錯させたハイブリッドな音楽性だ。ギターとシンセが前後を入れ替えながらリードを取り、ミニマルながらもフックの効いたフレーズがリスナーを引き込む。エミリー・ヘインズの歌声は、冷静さと熱情を同時に孕み、都会の夜を彷徨うようなシーンを思わせる。ダンサブルでありながらも、歌詞の中には政治的、社会的なニュアンスや皮肉も込められており、単なるクラブ向けのサウンドではなく知的な層にも響く作りになっている点が特徴だ。
おすすめのトラック
- 「IOU」
アルバム冒頭を飾るこの曲は、切れ味の鋭いリフとシンセが織り成す疾走感で、一気にMetricの世界観へと引き込む。虚無感と反抗心が交差する歌詞が印象的で、アルバム全体のトーンを決定づける役割を果たす。 - 「Combat Baby」
代表曲の一つであり、ポップでありながら反骨精神に満ちたシングル。パンキッシュな勢いとキャッチーなメロディが絶妙に同居し、Metricを象徴する楽曲といえる。歌詞の中に潜むアイロニーも聴きどころ。 - 「Calculation Theme」
本作の中でもひときわ内省的でドリーミーな楽曲。ミニマルなビートと浮遊感あるシンセに、エミリーの静謐なボーカルが乗ることで、アルバムの中に深い陰影を与えている。夜更けの都会に溶け込むようなムードが魅力。 - 「Dead Disco」
強烈なベースとシンセがリスナーを直撃する、ライブでも定番の一曲。タイトル通り「ディスコの死」を歌いながらも、皮肉にも踊らずにはいられないトラックとなっており、Metricの反逆的センスが光る。 - 「Love Is a Place」
アルバムのラストを飾るナンバーは、シンプルでありながらも温かみを感じさせるバラード調の楽曲。混沌とした世界を抜けた後に訪れる、わずかな救いを象徴するような位置付けとなっている。
アルバム総評
『Old World Underground, Where Are You Now?』は、当時のインディー・ロック/ポストパンク・リバイバルの流れの中で、Metricを一気にシーンの先頭へと押し上げた傑作だ。ダンスフロアに似合うビート感と、知的でシニカルな歌詞、そして都会的なクールネスを兼ね備えたそのサウンドは、20年以上経った今も色あせることなく輝きを放ち続けている。デビュー作にして既に完成度の高いバンドのアイデンティティを確立した本作は、Metricを語る上で欠かせない一枚であり、00年代初頭のインディー・シーンを象徴する重要作品の一つと言えるだろう。