Ramones『End of the Century』
1980年に発表された『End of the Century』は、ニューヨーク・パンクの先駆者ラモーンズが、メインストリームでの成功を賭けて制作した5枚目のアルバムです。プロデューサーに迎えたのは、ビートルズの『Let It Be』や「ウォール・オブ・サウンド(音の壁)」で知られる伝説的プロデューサー、フィル・スペクター。粗削りなパンク・サウンドと、スペクターによる過剰なまでの装飾的プロダクションが混ざり合った本作は、ファンの間でも賛否両論を巻き起こしましたが、結果として彼らのキャリアで最も商業的に成功し、最も野心的な一枚となりました。
ジャンルと音楽性
本作のジャンルは「パンク・ロック」に「50〜60年代風ポップス」が融合した、極めてユニークな立ち位置にあります。ラモーンズ本来の持ち味である「速い・短い・うるさい」という3コードの衝動はそのままに、スペクターの手によってストリングス、ブラス、ピアノ、そして幾重にも重ねられたギターの音壁が加えられました。パンクの破壊衝動と、ティーン・ポップスの甘いノスタルジーが同時に鳴り響く、奇妙で美しいサウンドスケープが特徴です。

Ramones/End of the Century
おすすめのトラック
- 「Do You Remember Rock ‘n’ Roll Radio?」 アルバムの冒頭を飾る、ラモーンズ史上最も華やかなアンセムです。サックスやピアノが鳴り響く重厚なサウンドの中で、かつてのロックンロールへの愛を叫ぶこの曲は、ラジオから流れてきた黄金時代へのオマージュに満ちています。パンクの枠を飛び越えた、スタジアム級のスケール感を持つ傑作です。
- 「Rock ‘n’ Roll High School」 映画の主題歌としても有名な、彼らの代表的なポップ・パンク・ナンバーです。オリジナル版よりも音の厚みが増しており、ジョーイ・ラモーンの甘いヴォーカルが際立っています。反抗心と遊び心が同居したリリックは、全世代の「落ちこぼれ」たちに捧げられた永遠の青春賛歌といえます。
- 「Baby, I Love You」 ザ・ロネッツのカヴァーであり、ラモーンズ史上最も論争を呼んだバラードです。パンク・バンドとしての楽器演奏はほぼ排除され、オーケストラをバックにジョーイが朗々と歌い上げます。賛否はあれど、ジョーイの歌唱力の高さと、ラモーンズが根底に持っていた「60年代ポップスへの憧憬」が最も純粋な形で表現された美しい1曲です。
- 「Danny Says」 ツアー生活の孤独と恋人への想いを綴った、切ないミドルテンポの楽曲です。スペクター流のアコースティックな響きと繊細なアレンジが、ジョーイのナイーブな歌声と見事にマッチしています。彼らが単なるパンク・バンドではなく、優れたソングライター集団であったことを再認識させてくれる隠れた名曲です。
アルバム総評
『End of the Century』は、ラモーンズという「不純物なきパンク」が、フィル・スペクターという「巨大なエゴ」と衝突して生まれた異形の傑作です。制作現場での銃撃戦寸前のトラブルなど、数々の伝説に彩られたアルバムですが、そこで鳴っている音は驚くほどロマンティックで情熱的です。パンクの初期衝動を愛する人には違和感があるかもしれませんが、ポップ・ミュージックの歴史において、これほどまでに刺激的で、かつ甘美な衝突は他にありません。時代を超えて愛されるべき、ロックンロールの極北がここにあります。


