ラフでグルーヴィ、そしてどこか艶やか。Jigsy King『Have to Get You』は、90年代のダンスホール・レゲエの魅力を凝縮したような一枚だ。鋭く突き刺さるディージェイ・スタイルに、濃密なベースラインとリズムセクション。現場で鍛えられた男の声が、恋とストリートの物語を情熱的に紡ぎ出す。パワフルかつセクシーなこのアルバムは、ダンスホール黄金期を鮮やかに想起させてくれる。
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ジャンルと音楽性
『Have to Get You』は、Jigsy Kingの持ち味である力強く切れ味鋭いディージェイ・スタイル(トースティング)を軸にした90年代ダンスホールレゲエ。
ドラム&ベース主導のグルーヴィなトラックに、時に陽気で、時に挑発的なリリックが重なる。プロダクションは当時のジャマイカン・スタジオらしいラフさを残しつつ、クラブ対応のビート感もしっかりと備えている。シンセの使い方やホーンの挿入も絶妙で、土臭さと洗練の絶妙なバランスが魅力的だ。
また、Jigsyの声は、ハスキーでありながらもどこか色気を帯びており、レゲエだけでなくR&Bやソウルとも相性が良い。実際、アルバム内ではラヴァーズ・ロック寄りのトラックもあり、幅広いリスナー層にアピールできる器用さも感じられる。
おすすめのトラック
- 「Have to Get You」
タイトル曲にして、アルバムの中核をなすラヴソング。鋭いパトワのフロウに乗せた、男のストレートな恋心が熱く響く。アップテンポながら、ロマンティックな雰囲気も漂う名トラック。 - 「Bumper No Round」
重低音の効いたリディムに乗って放たれる煽情的なリリックは、90年代ジャマイカン・クラブシーンの熱気をそのまま封じ込めたような一曲。フロアを揺らす破壊力とストリート感覚が光るダンスホール・アンセムだ。 - 「Gal a Fuss」
恋人同士のケンカをテーマにしたJigsy Kingらしいユーモアとリアリティが光る一曲。タフなビートに乗せて展開される言い合いの描写は、笑いと共感を誘いながらもリズムを崩さない絶妙なトースティングが魅力。日常の一コマをダンスホールに昇華した、Jigsyならではの語り口が冴える好トラックだ。 - 「Want Yu Body」
セクシャルでストレートなリリックが際立つラガ・ラブチューン。グルーヴィなリディムと肉感的なフロウが絡み合い、夜のダンスホールを思わせる妖しい熱気を放つ。挑発的でありながらもどこかチャーミングなJigsyの持ち味が炸裂する、濃厚でキャッチーな一曲だ。
アルバム総評
『Have to Get You』は、Jigsy Kingというアーティストのキャラクターと時代性が見事に結晶化したアルバムだ。
ガラリと表情を変えるフロウ、恋愛から社会風刺まで幅広くカバーするリリック、そして何よりも“ダンスホールとは何か”を体現するグルーヴ。流行や技術に左右されず、自分のスタイルを貫いたJigsyの姿勢が、本作には色濃く現れている。
ダンスホール初心者にもおすすめできるバランスの良さと、コアなリスナーも満足させる骨太さ。〈まさに“知る人ぞ知る名盤”〉であり、90年代ジャマイカン・ダンスホールのリアルを知るには欠かせない一枚だ。