ネオロカビリー界の重鎮、Polecatsが放つスタジオ・アルバム『Nine』は、彼らのキャリアの集大成であり、今なお衰えないエネルギーと進化を感じさせる快作だ。1980年代初頭に登場し、伝統的ロカビリーをポップなセンスとパンク的衝動で再構築してきた彼らが、約40年の時を経てなお、瑞々しく刺激的なサウンドを鳴らしている。『Nine』はその名の通り9作目のアルバムでありながら、まるでデビュー作のようなフレッシュな魅力に満ちている。
ジャンルと音楽性
『Nine』の音楽性は一言でいえば“モダン・ネオロカビリー”。往年のロカビリーを核としつつも、ガレージロックやサイコビリー、ポップパンク、果てはラテンやサーフなど、多彩なジャンルの要素を取り込み、2020年代の感覚で再構築している。マーチン・ケンプの軽快なスラップ・ベースと、ボージー・ジェームズのきらびやかなギターが絶妙に絡み合い、ポール・ファンクのヴォーカルが楽曲に独特の陰影と艶やかさを添えている。
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おすすめのトラック
- 「Get On the Right」
ネオロカビリーの軽快なエネルギーが全開の一曲。ギターのスラップ感と跳ねるようなリズムに乗せて、ポジティブでストレートなメッセージが展開される。クラシックなロカビリーのDNAを保ちつつも、80年代的なモダンさとクールなパフォーマンスが融合しており、バンドの持つ遊び心と鋭さが光る。 - 「Let’s Go Crazy」
プリンスの名曲をネオロカビリー流に大胆アレンジしたカバー。原曲のファンクとグルーヴ感を保ちながらも、スラップベースと弾むビートでロカビリーのスピリットを注入。軽快かつパンキッシュな演奏により、全く新しい「狂騒」の魅力を放っている。 - 「Train Kept Rollin’」
ロカビリーのクラシックに火をつけるようなエネルギーを放つナンバー。疾走感あふれるスラップベースと切れ味鋭いギターが交差し、まるで列車が暴走するかのようなスリルを生み出している。原曲の荒々しさにPolecatsならではの洗練されたパンキッシュなエッジを加えた、まさに“止まらない衝動”を体現するカバーだ。 - 「Boppin’ High School Baby」
1950年代のティーンエイジスピリットをそのまま現代に蘇らせたような軽快なロカビリー・チューン。跳ねるリズムとキャッチーなメロディが青春の甘酸っぱさとワイルドさを同時に呼び起こし、聴く者の心をノスタルジックなダンスフロアへと誘う。 - 「The Headless Horseman」
ロカビリーに怪奇なストーリーテリングを織り交ぜたユニークなナンバー。スリリングなギターリフと疾走感のあるリズムが、不気味な伝説をポップに彩り、聴き手をハロウィンナイトのような異世界へ連れ出す。遊び心とダークな魅力が絶妙に融合した隠れた名曲。
アルバム総評
『Nine』は、Polecatsの音楽的成熟と遊び心が絶妙なバランスで共存している傑作だ。ジャンルの枠にとらわれず、しかしロカビリーという芯を失わないその姿勢は、まさに現代のネオロカビリーの理想形といえる。過去の遺産をただ再現するのではなく、そこに新しい血を通わせ、次の世代に繋げていくPolecatsの音楽は、今なおロックンロールの最前線に立っている。ベテランの風格と新人のような探求心が交差するこのアルバムは、すべてのロカビリー/ロックファンに一聴の価値がある。