1996年にリリースされたThe Divine Comedyの『Casanova』は、フロントマンであるニール・ハノンの独特な世界観が全面に押し出されたアルバムだ。文学的ユーモア、風刺、そして恋愛の皮肉を、華麗なストリングスと英国風のメロディで包み込んだその音楽は、ブリットポップ全盛期にあっても異彩を放っていた。タイトル通り“色男”の視点から描かれる楽曲の数々は、単なる洒落たポップを超え、聴く者にウィットと哀愁を突きつける。
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ジャンルと音楽性
本作のジャンルは一言で表すなら「オーケストラル・ポップ」。しかしその内実は、クラシックの素養とポップセンスが緻密に融合した芸術的作品である。バロック音楽や映画音楽からの影響が随所に見られ、壮麗なストリングス、鍵盤楽器の優雅な旋律、そしてハノンの豊かなバリトンボイスが、シニカルな歌詞と絶妙なコントラストを生んでいる。パンクやギター・ロックとは真逆を行くこのスタイルは、The Divine Comedyを唯一無二の存在に押し上げた。
おすすめのトラック
- 「Something for the Weekend」
キャッチーなメロディとコミカルな展開で、シングルカットもされた本作の代表曲。浮気現場に巻き込まれる男性の悲哀と滑稽さを描いたストーリー仕立ての歌詞が印象的だ。 - 「Becoming More Like Alfie」
イギリス映画『アルフィー』の主人公に倣ってプレイボーイになろうとする男の心の葛藤が描かれる。洒落たピアノと軽妙なホーン・セクションが耳に残る、皮肉と哀愁のバランスが絶妙な名曲。 - 「The Frog Princess」
恋人に振られた男の執念と未練が綴られる、ややダークなバラード。壮麗なオーケストレーションと、ハノンの情感あふれる歌唱が心を打つ。 - 「Charge」
ミリタリー風の行進曲を思わせるアレンジと、政治風刺を織り交ぜた歌詞がユニークな一曲。重厚なサウンドと緻密な構成がアルバムの中で際立っている。 - 「Through a Long & Sleepless Night」
哀愁ただようミドルテンポのナンバーで、ストリングスの重ね方やコード展開が美しい。夜の孤独感を見事に音楽で表現している。
アルバム総評
『Casanova』は、The Divine Comedyというプロジェクトの魅力が凝縮されたアルバムであり、90年代の英国ポップ史における知的で洒脱な一石である。軽妙なメロディと文学的な歌詞、そしてクラシカルなアレンジの融合は、ポップミュージックに対するハノンなりの風刺であり、愛でもある。ロマンスの滑稽さと哀しさを同時に描くこのアルバムは、聴けば聴くほど味わいが深まり、リスナーの知性と感受性をくすぐり続ける。単なるポップソング集ではなく、まさに“音楽による一篇の喜劇詩”だ。