アメリカのメロディック・ハードコア/パンクバンド、Allが1998年にリリースした通算7作目のスタジオアルバム『Mass Nerder』は、バンド史上最もタイトでエネルギッシュな作品の一つとして評価されています。バンドの核であるBill Stevenson(ドラム)とKarl Alvarez(ベース)、そしてStephen Egerton(ギター)による鉄壁の演奏陣に、チャド・プライス(Chad Price)の力強くも情感豊かなボーカルが加わり、彼らが追求する「All Music」の理想形を体現しています。タイトルの「Mass Nerder(集団オタク)」が示唆するように、社会に対する皮肉や内省的なテーマを、高速かつメロディアスな楽曲群を通して表現しています。本作は、短尺の楽曲を多数収録し、疾走感あふれるパンクのエッセンスが凝縮された、まさに彼らのキャリアを代表する一枚です。
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ジャンルと音楽性
本作のジャンルは、主にメロディック・ハードコアまたはポップパンクに分類されます。しかし、単なるポップパンクの枠には収まらない、緻密な構成と高い演奏技術が特徴です。
楽曲は非常にタイトで高速であり、初期Descendentsやハードコアパンク直系の衝動的なエネルギーを保持しています。演奏時間も短く、一気に駆け抜けるような緊張感があります。それにもかかわらず、Chad Priceのキャッチーなメロディラインが際立っており、特にサビの部分は非常にポップで覚えやすい構造を持っています。このメロディと、複雑なリズム、ヘヴィなリフのバランスが、Allの独自性を確立しています。
Bill Stevensonのリズムセクションは常に正確で力強く、Stephen Egertonのギターは技巧的なリフや予測不能なコード進行を導入することで、単調なパンクに終わらない奥行きを与えています。
おすすめのトラック
- 「World’s On Heroin」
アルバムの幕開けを飾る、わずか2分弱の猛烈なハードコア・チューン。高速かつタイトな演奏と、社会風刺的な歌詞が印象的で、一気にアルバムの世界観に引き込みます。Allの持ち味である「速さと怒り」が凝縮された、オープニングに相応しい強力な一撃です。 - 「Until I Say So」
Chad Priceが作曲・作詞を担当した、本アルバムにおけるメロディック・パンクの代表曲の一つ。疾走感がありながらも、サビのメロディは非常にキャッチーで耳に残ります。個人の決意や意思の強さを歌う歌詞も、多くのリスナーの共感を呼ぶでしょう。 - 「Silly Me」
ややミディアムテンポで始まるも、すぐに推進力を増す構成を持つ楽曲。曲の随所に複雑なギターフレーズが散りばめられており、単なる3コードパンクではない演奏力の高さを感じさせます。内省的なテーマを扱いながら、高揚感のあるサビへと導く展開が見事です。 - 「Vida Blue」
Karl Alvarez作曲の、軽快ながらも骨太なベースラインが特徴的な楽曲。タイトなリズムとユニークなグルーヴが楽しめる一曲であり、曲の長さは約2分と短いながらも、バンドメンバーそれぞれの個性が光るポップパンクの佳曲です。 - 「Good As My Word」
アルバム終盤に収録されているにもかかわらず、その勢いを衰えさせない力強いナンバー。特にギターのEgertonとドラムのStevensonによるタイトな掛け合いが冴えわたります。短い演奏時間の中にドラマチックな展開を詰め込んだ、All流ハードコア・パンクの典型と言えます。
アルバム総評
『Mass Nerder』は、Allがそのキャリアにおいて到達した一つの完成形を示しています。メロディとアグレッションという、パンクロックの二律背反を高い次元で両立させた本作は、タイトな演奏とチャド・プライスの感情豊かなボーカルによって、一曲一曲が濃密なエネルギーを放っています。全15曲、約30分というコンパクトさも相まって、リスナーに一切の緩みを与えることなく疾走しきります。90年代メロディック・ハードコアの傑作として、パンクの歴史において重要な位置を占める作品です。


