Wayne County(後のJayne County)率いるElectric Chairsが放ったライブ・アルバム『At the Trucks!』は、1970年代後半のニューヨークとロンドンのアンダーグラウンドが交差する、濃密で反骨精神あふれる記録だ。Wayne Countyは当時の音楽界において、唯一無二のパフォーマーとして際立っていた。性別や社会的タブーを蹴散らすその存在と、鋭い風刺と毒を含んだリリックは、まさに“パンク”そのものであり、同時にグラムロックの華やかさとドラァグクイーン・カルチャーを融合させた先駆的なアーティストだった。
『At the Trucks!』は1978年に録音されたライブ・パフォーマンスで、まるでステージ上で爆発するロック・キャバレーのようだ。彼女の(当時は「彼」だった)毒舌とユーモア、性的アイデンティティの表現、そして強烈なカリスマ性は、観客を煽動しながらも笑わせる絶妙なバランスを持つ。バンドのElectric Chairsによる演奏は、グラムロック、ガレージパンク、プロトパンクのエッセンスが混ざり合い、70年代ロンドンのカオスな空気を音で再現している。
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ジャンルと音楽性
本作の中心にあるのはグラム・パンク(glam punk)、そこにガレージロック、プロトパンク、ロカビリーの香りが交錯する。Iggy PopやNew York Dollsに通じる退廃美と破壊的エネルギーに、Wayne Countyの持つ演劇的なパフォーマンスが加わることで、ライブ盤でありながら一種のミュージカルのような聴き応えがある。
おすすめのトラック
- 「Wonder Woman」
グラム・パンクのエネルギーとジェンダーへの挑戦が融合した楽曲です。タイトルからも分かるように、伝統的な性別観に対する風刺と、自己表現の自由を高らかに宣言しています。 - 「Putty」
1970年代のグラム・パンクの精神を体現した楽曲で、性的な暗喩とユーモアを交えた歌詞が特徴です。彼女の挑発的なボーカルとエネルギッシュな演奏が融合し、聴く者に強烈な印象を与えます。 - 「Prostitute with a Parachute」
この曲は、ジェンダーやセクシュアリティの枠を超えた自己表現の自由を象徴しており、当時の音楽シーンに新たな風を吹き込んだ一曲です。 - 「Max’s Kansas City」
同名の伝説的クラブへのオマージュとして制作され、グラム・パンクのエネルギーとアンダーグラウンド文化への愛が詰まっています。この曲は、後にリリースされたコンピレーション・アルバム『Max’s Kansas City 1976』の冒頭を飾り、パンクの黎明期を体感できる貴重な一曲となっています。
総評:今なお尖り続ける“異端の女王”の記録
『At the Trucks!』は、単なるライブ・アルバムではない。70年代の音楽とジェンダーの境界を揺るがしたWayne Countyという存在を焼き付けた、“文化ドキュメント”とも言える作品である。今の耳で聴いても、その攻撃性、ユーモア、自己肯定の強さは古びるどころか、むしろ2020年代のラディカルなムーブメントと共鳴している。トランスジェンダーであることを隠すことなく表現した最初期のロックアーティストの一人として、Wayne Countyは歴史的に再評価されるべきだ。
その意味でも『At the Trucks!』は、ただの“変わり者のライブ”ではなく、ロックとカルチャーの進化を物語る一章なのである。