The Kinks『Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire)』
1969年、ザ・キンクスが発表した本作は、もともとはテレビ番組のサウンドトラックとして企画されたコンセプト・アルバムです。中心人物レイ・デイヴィスの義理の兄である「アーサー」をモデルに、第二次世界大戦を経て変化していくイギリス社会と、そこに生きる庶民の悲喜こもごもを描いています。前作『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』で追求した英国への愛着を、より鋭い社会風刺とドラマチックな物語性へと深化させた、英国ロックの至宝とも言える一枚です。
⬇️アマゾンミュージックで『Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire)』をチェック⬇️
https://amzn.to/4rL5Dm2
ジャンルと音楽性
ジャンルとしては、バロック・ポップ、サイケデリック・ロック、そして力強いブリティッシュ・ロックが混在しています。ブラス・セクションの導入や多重録音によるコーラス・ワークなど、非常に凝ったアレンジが施されていますが、根底にあるのはレイ・デイヴィス特有の「親しみやすいメロディ」です。当時のハードロック化する周囲のバンドとは一線を画し、ミュージック・ホール風のユーモアと、パンキッシュなギター・サウンドが共存する独特の音楽性を確立しています。
おすすめのトラック
- 「Victoria」 アルバムの幕開けを飾る、誇り高きヴィクトリア朝への皮肉と賛辞が混じった名曲です。軽快なギター・リフと力強いブラスが、古き良き英国のイメージを鮮やかに描き出しています。
- 「Shangri-La」 労働者が手に入れた「郊外の庭付きマイホーム(シャングリラ)」をテーマにした楽曲です。穏やかなアコースティック・ギターから始まり、徐々に熱を帯びてドラマチックに展開する構成は、ロック史に残る構成美を誇ります。
- 「Arthur」 アルバムのタイトル・トラックであり、主人公アーサーへの問いかけを歌っています。軽快なリズムに乗せて、失われた自由や時代の変化を鋭く、かつ優しく指摘するレイのストーリーテリングが冴え渡っています。
- 「Mr. Churchill Says」 チャーチル首相の言葉を引用しながら、戦時中の緊迫感と喧騒を再現した楽曲です。途中でリズム・チェンジし、空襲警報のようなサイレン風の演出が入るなど、実験的な試みが成功しています。
- 「Drivin’」 社会の混沌から逃れようとする、のどかで楽観的な一曲です。複雑なコンセプトの中で、ふと肩の力が抜けるようなキャッチーなメロディが、ザ・キンクスのポップ・センスを物語っています。
アルバム総評
『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』は、一人の男の半生を通じて「国家の斜陽」を鮮やかに浮き彫りにした、稀有なコンセプト・アルバムです。レイ・デイヴィスの歌詞は鋭い皮肉に満ちていますが、同時にそこには市井の人々に対する深い慈しみと愛情が流れています。音楽的にも、デイヴ・デイヴィスの鋭利なギターと緻密なスタジオワークが最高のバランスで結実しており、ザ・ビートルズやザ・フーの傑作と並び称されるべき、不朽のロック・オペラといえるでしょう。



