Richard Strange/The Phenomenal Rise of Richard Strange
1970年代後半に伝説のプロト・パンクバンド「ドクターズ・オブ・マッドネス(Doctors of Madness)」を率い、セックス・ピストルズ登場前夜のロンドンを揺るがした異才、リチャード・ストレンジ(Richard Strange)。彼がバンド解散後の1981年に発表した初のソロ・アルバム『The Phenomenal Rise of Richard Strange』は、ポスト・パンクからニュー・ウェイヴへと移行する激動の時代に産み落とされた、極めてコンセプチュアルで演劇的なアート・ポップの傑作です。 デヴィッド・ボウイを彷彿とさせる退廃的(デカダン)なヴォーカルと、初期のシンセ・ポップ、キャバレー・ロックが融合した本作は、当時のサブカルチャーの空気感を色濃く反映した、今こそ再評価されるべきカルト的名盤です。
ジャンルと音楽性
本作の音楽ジャンルは、「ポスト・パンク」「ニュー・ウェイヴ」「シンセ・ポップ」、そして「シアトリカル・ロック(演劇的ロック)」に位置づけられます。 ドクターズ・オブ・マッドネス時代の過激なガレージ・パンク・サウンドからは一転し、本作ではエレクトロニックなシンセサイザーの導入や、アコーディオン、管楽器などを交えた「キャバレー(欧州キャバレー・ミュージック)」的な耽美で冷徹なアレンジが光ります。 ストレンジのダンディで説得力のある低音ヴォーカルが、虚飾に満ちた現代社会や個人の孤独、および「リチャード・ストレンジの驚異的な台頭(タイトル)」という架空のスターダムをテーマにしたストーリーを冷ややかに、かつドラマチックに歌い上げます。

Richard Strange/The Phenomenal Rise of Richard Strange
おすすめのトラック
- 「The Phenomenal Rise of Richard Strange」アルバムのタイトル曲であり、本作のコンセプトを象徴するオープニング・トラックです。チープながらもどこか不穏で中毒性のあるシンセサイザーのシーケンスと、淡々と語りかけるようなストレンジのヴォーカルが、聴き手を一気にデカダンな仮想空間へと引き込みます。架空のスターとしての自らの台頭をアイロニカルに描いた、ポップでダークな名曲です。
- 「On Top of the World」アルバムA面の2曲目に位置する、非常にエネルギッシュで華やかなニュー・ウェイヴ・アンセムです。きらびやかなホーン・アレンジと跳ねるようなリズムが、まさに「世界の頂点に立つ」という妄想的な高揚感を表現しています。きらびやかなサウンドの裏に、ストレンジならではの冷徹な知性とアイロニーが忍び込んでいるのが、この曲を一層魅力的にしています。
- 「Gutter Press」タイトル通り、俗悪な「ゴシップ紙(イエロー・ペーパー)」やメディアの暴走を皮肉たっぷりに風刺したポスト・パンク・ナンバーです。尖ったビートと演劇的なヴォーカル・スタイル、そして不気味ながらもどこかユーモラスなメロディラインが絶妙に絡み合います。彼の鋭い社会風刺の目線が炸裂した、アルバム前半の隠れたキラー・チューンです。
- 「International Language」アルバム中、最もキャッチーでダンサブルなニュー・ウェイヴ・ナンバーです。弾むようなシンセ・ベースと小気味よいギターのカッティング、そして哀愁を帯びたメロディ・ラインが完璧に融合しています。「世界共通の言語」をテーマに、グローバル化する冷戦末期の社会を皮肉った歌詞も秀逸で、80年代ディスコ・パンクの先駆としても評価できる一曲です。
アルバム総評
『The Phenomenal Rise of Richard Strange』は、単なるポップ・ミュージックの枠組みを超えた、1編の退廃的な舞台演劇を観ているかのような深い余韻を残すアートピースです。 きらびやかな80年代ポップ・シーンの陰で、これほどまでに知的で、冷ややかで、同時に人間臭いエモーションを放つ音楽が存在したという事実は、音楽ファンにとって大いなる発見となるはずです。
デヴィッド・ボウイや、ブライアン・フェリー、あるいは初期のウルトラヴォックス(Ultravox)のような耽美的な世界観が好きなリスナーには、まさに一生物のマスターピース。真夜中に部屋の明かりを落とし、極上のデカダンスに身を委ねてみてください。
🎵International Language


