1988年、クラブシーンとチャートを同時に揺さぶった爆弾が落ちた──Bomb The Bass『Into the Dragon』。サンプラーを武器に、ヒップホップ、エレクトロ、ハウス、ポップを自在に横断しながら、衝動とスタイルを両立した最先端サウンドを世に放った本作は、ダンスミュージックとポップスの境界を溶かした歴史的なアルバムだ。
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ジャンルと音楽性
『Into the Dragon』は、エレクトロ・ヒップホップ、サンプリング・ポップ、エレクトロニカ初期形態と形容されるジャンルを横断する。中心人物ティム・シンプソン(Tim Simenon)は、ターンテーブルとサンプラーを駆使して、スクラッチ音、ブレイクビーツ、ラップ、ソウルフルな歌声、異様な効果音までも混ぜ合わせ、独自のコラージュ・サウンドを作り上げた。
重要なのは、このサウンドが実験的でありながら極めてポップである点。アンダーグラウンドとメインストリームの両方にアピールし、当時のイギリス・クラブカルチャーの流れを変えたといっても過言ではない。
おすすめのトラック
- 「Beat Dis」
オープニングを飾る超重要曲。無数のサンプルを重ね、ラップなしでインストながらも、一瞬で耳を掴むダンス・クラシック。カオティックなのにグルーヴィーで、88年のUKシーンを代表する一曲。 - 「Megablast」
強烈なブレイクビーツと、ゲーム音のような電子的な効果音が炸裂する名曲。後にゲーム『Xenon 2 Megablast』の主題歌にもなり、クラブとゲーマー文化の橋渡し役ともなった。 - 「Don’t Make Me Wait」
ザラついたビートに乗せて、ソウルフルな女性ボーカルが映える異色の一曲。ハウスとR&Bの先駆的ミックスともいえるサウンドで、後のUKソウル/ダンス系アーティストに大きな影響を与えた。 - 「Dynamite Beats」
ロウなヒップホップビートにエレクトロ・フレーバーをトッピングした、クラシックなBボーイスタイル。シンプルだが、無敵のグルーヴ感がたまらない。 - 「Say A Little Prayer」
アレサ・フランクリンの名曲を大胆にリワーク。オリジナルのソウルフルさを損なわず、エレクトロ・ビートでアップデートするセンスが光るカバーで、アルバムに柔らかな起伏を与えている。
アルバム総評
『Into the Dragon』は、ダンスミュージックの未来を一歩早く鳴らした爆弾だった。当時最先端だったサンプリング技術を駆使しながらも、リスナーを置き去りにすることなく、ポップで親しみやすい仕上がりになっているのは、ティム・シンプソンの天性のセンスによるものだろう。
このアルバムがなければ、90年代以降のビッグ・ビートやエレクトロニカ、さらにはブリットポップのサウンドにも違った進化があったはずだ。パンク精神とフロアの熱狂を繋いだ先駆者としてのBomb The Bassの功績が、今あらためて浮かび上がる。
『Into the Dragon』は、1980年代後半の音楽革命の縮図であり、今聴いても驚きと快感に満ちた傑作だ。