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1970年代のアメリカン・アンダーグラウンドから突如として現れた孤高の才能、ジョージ・ブリッグマン!彼の1975年発表作『Jungle Rot』は、ローファイ録音と手作りのサウンドが生む“生々しい泥臭さ”と“幻覚的なブルースロックの熱”が融合した、DIYロック史のカルト中のカルトと称される一枚だ

Rock Rock/Alternative
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1975年にリリースされたGeorge Brigmanのデビュー・アルバム『Jungle Rot』は、音楽史における「忘れられた傑作」、あるいは「アシッド・アーカイヴの至宝」としてカルト的な人気を誇る作品です。当時わずか18歳だったボルチモアのギタリスト兼ボーカリストであるBrigmanが、ほとんど自宅で、プリミティブな録音技術を駆使して作り上げたこの作品は、その時代のメインストリームのロックとは全く異なる、生々しく、凶暴なディストーション・ブルース・ロックの塊です。パンク革命以前の1970年代半ばという時代に、DIY精神と、The StoogesやThe Groundhogsといったアンダーグラウンドの英雄たちへの傾倒を背景に生まれた本作は、後のノイズロックやローファイ・パンクに先駆けるプロト・パンクの極北と位置づけられています。

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Amazon.co.jp: Jungle Rot : George Brigman: デジタルミュージック
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ジャンルと音楽性

『Jungle Rot』の音楽性は、一言で表すならば「ファズまみれのアシッド・ブルース・パンク」です。

核となるのは、彼が多大な影響を受けたと公言する英国のサイケデリック・ブルース・バンド、The Groundhogs(特にギタリストのトニー・マクフィー)です。しかし、Brigmanのサウンドは、単なるブルース・ロックの模倣に留まりません。極限まで歪ませたファズギターは、原子力の廃棄物のように放射能を帯びたリフを撒き散らし、その音響はBlue Cheerの轟音やThe Stoogesの原始的な衝動を連想させます。

録音がアマチュア的でローファイである点も、このアルバムの決定的な特徴です。その簡素なプロダクションがかえって、Brigmanの荒々しく攻撃的なソングライティングと、感情の起伏が少ない無関心なボーカルと相まって、独特の退廃的で陰鬱なムードを生み出しています。ブルースの骨格を持ちながらも、その表現は極めてパンク的であり、サイケデリック・ロックの酩酊感も同時に味わえる、非常に特異なサウンドです。

おすすめのトラック

  • 「Jungle Rot」
    アルバムのタイトル・トラックであり、この作品のサウンドのすべてを凝縮したキラーチューンです。懲罰的なまでの4/4のリズムと、音像全体を覆い尽くすかのようなファズ・ディストーションが特徴。荒々しいギターのパンニング(左右の音の移動)効果も相まって、まさに腐敗したジャングルの中で迷い込んだかのような熱狂的な酩酊感を与えます。彼の凶悪なリフワークが冴えわたる必聴の一曲です。
  • 「(T.S.)」
    このインストゥルメンタル曲は、彼のヒーローであるThe GroundhogsのTony McPheeへのオマージュとして知られています。タイトルはT.S. McPheeの頭文字から取られています。曲は、延々と繰り返される強靭なブルース・ブギー・リフが中心となって展開し、Brigmanが持つブルース・ロックの素養と、狂気じみたギターへの愛情を垣間見ることができます。そのリフは、中毒性が高く、一度聴くと頭から離れなくなる魅力があります。
  • 「I’m Married Too」
    アルバムの中でも異色のファンキーでサイケデリックなブルース・トラックです。Ronnie Collierがボーカルとハーモニカを担当しており、Brigmanの曲の中では珍しく、グルーヴィーでユーモラスな雰囲気を醸し出しています。ファズの壁は健在ですが、どことなくCaptain Beefheartの荒唐無稽なブルースに通じる、遊び心とひねりのある楽曲です。
  • 「It’s Misery」
    Brigmanが缶製造工場で働いていた経験を歌ったとされるこの曲は、アルバムの中でも特に陰鬱でメランコリックなムードが漂っています。ローファイなプロダクションと、諦念めいたボーカルが、曲の持つ「悲惨さ」というテーマを強調しています。この曲にはThe Velvet Undergroundの持つダウンナー(憂鬱)な雰囲気も感じられ、Brigmanが単なる暴力的ギタリストではないことを示しています。
  • 「Worrying」
    シンプルな構造ながら、心臓を直接叩くような生々しいドラムと、反復される強迫観念的なリフが特徴的なトラックです。曲全体が不安と緊張感に包まれており、聴いている者に精神的な不快感すら与えますが、それこそがこのアルバムの魅力です。彼のソングライティングの戦闘的な側面がよく出ているナンバーと言えます。

アルバム総評

George Brigmanの『Jungle Rot』は、1975年という時代に、来るべきパンクの衝動と、過去のブルース・ロックの轟音を、個人宅録音というプリミティブな手段で融合させた、特異点のような作品です。そのサウンドは決して聴きやすいものではありませんが、Brigmanの才能と狂気、そしてギターに対する情熱が、極限まで歪んだファズの層の下から噴き出しています。当時の音楽業界から完全に無視され、何十年もコレクターの間でのみ高額で取引されてきたこのアルバムは、ロックの歴史における「失われた環」の一つであり、ローファイ・サウンドやプロト・パンク、ハード・サイケデリックのファンにとっては、間違いなく聴くべき大傑作です。

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