1994年にリリースされたBanane Metalikのファースト・フルアルバム『Requiem de la dépravation(退廃のレクイエム)』は、彼らが提唱するジャンル「Gore’n’Roll(ゴア・ン・ロール)」の誕生を告げる記念碑的な作品です。フランスのサイコビリー/ホラーパンクシーンから現れたこのバンドは、その後の過激で血生臭いステージパフォーマンスと、ホラー映画からインスパイアされた退廃的なサウンドの雛形を本作で確立しました。タイトな演奏と、フランス語の響きが持つ独特のシニカルなムードが、アルバム全体に不気味で背徳的な雰囲気をまとわせています。本作は、Banane Metalikのキャリアにおいて、彼らのアイデンティティを決定づけた「ホラーとロックンロールの融合」の原点であり、国際的なカルト的人気を獲得する基盤となりました。
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ジャンルと音楽性
Banane Metalikの音楽性は、主にサイコビリー(Psychobilly)を基盤としながら、パンク・ロックの攻撃性、そして初期衝動的なガレージ・ロックの要素を混ぜ合わせたものです。彼らが自称する「Gore’n’Roll」とは、ホラー映画やエクスプロイテーション映画から着想を得た猟奇的な歌詞やテーマを、アップテンポで荒々しいロカビリー・パンクに乗せたスタイルを指します。
本作の特徴は、粗削りながらも強烈なエネルギーを放出するサウンドプロダクションにあります。ボーカルのセドリック・ラヴァ(Lava Cédric)によるフランス語の歌唱は、単にアグレッシブなだけでなく、時折、シアトリカルで物語的な要素を帯び、ゴシックなムードを増幅させています。ギターは鋭利なリフで楽曲を牽引し、サイコビリーの必須要素であるスラップベースは、重く、地面を這うようなグルーヴを提供。このダークで暴力的でありながら、どこかポップなメロディが顔を覗かせるバランスが、Banane Metalikのユニークな魅力となっています。
おすすめのトラック
- 「Requiem De La Dépravation」
アルバムのタイトルを冠したこの曲は、彼らの「Gore’n’Roll」サウンドの中核を示すトラックです。メランコリックで不穏なイントロから、一転してアップテンポなサイコビリー・グルーヴへと突入します。フランス語のタイトルと歌詞が持つ退廃的な美しさと、激しい演奏のコントラストが際立っており、聴き手をBanane Metalikの世界観へと引きずり込む力を持っています。 - 「Rock’n’Shoot」
シンプルかつアグレッシブなパンク・ロック色の強いキラーチューンです。勢いのあるドラムビートと、キャッチーでノイジーなギターリフが特徴で、初期衝動的なエネルギーに満ちています。ライブでも定番となるであろう、観客を熱狂させるための直球のロックンロール・ナンバーであり、彼らの攻撃的な一面を最もよく表しています。 - 「Zombie」
サイコビリーの定番テーマの一つである「ゾンビ」を扱った楽曲です。荒々しい演奏の中に、ホラー映画のサウンドトラックのような不気味なSEやコーラスが挿入されており、バンドが標榜するホラー要素が色濃く出ています。ウッドベースのスラップと、テンポの変化が効いており、聴いているとまるで悪夢のようなダンスフロアにいる感覚に陥ります。 - 「Etat Sauvage」
「野蛮な状態」という意味を持つこの曲は、初期の彼らが持っていたガレージ・パンク的な荒々しさを強く感じさせます。後の作品に見られるような洗練されたプロダクションとは異なり、ローファイで生々しい音像が、曲の持つプリミティブなパワーを強調しています。このアルバムのアンダーグラウンドで危険な雰囲気を凝縮した一曲です。 - 「Killer Bananas」
アルバムの最後を締めくくるこのトラックは、バンド名「Banane Metalik」の「バナナ」を冠した、ある種のユーモアと狂気が混ざった楽曲です。速くてヘヴィなリフが連続する中にも、彼ららしいキャッチーなメロディが垣間見え、聴き終わった後の余韻として強烈な印象を残します。荒々しいフィナーレとして完璧な一曲です。
アルバム総評
Banane Metalikの『Requiem de la dépravation』は、彼らが後に世界的なホラー・パンクのアイコンとなる礎を築いた、混沌とした傑作です。演奏技術よりもエネルギーとムードが重視されており、その粗削りなサウンドこそが、アルバム全体の背徳的で不気味な魅力を最大限に引き出しています。この作品で定義された「Gore’n’Roll」は、単なる音楽ジャンルではなく、マカブでショッキングな美学を追求する彼らの生き様そのものと言えるでしょう。フランス語圏のサイコビリーとしては非常にユニークな存在であり、ダークでアグレッシブなロックンロールを求めるリスナーにとって、避けて通ることのできないカルト的な名盤です。


