Iann Dior『leave me where you found me』
2023年にリリースされたIann Dior(イアン・ディオール)のアルバム『leave me where you found me』は、彼がポップ・パンクやエモ・ラップの旗手として確立した地位から、さらに一歩踏み出し、自身の内面と向き合った意欲作です。24KGoldnとの「Mood」の大ヒットで世界的なスターとなった彼が、華やかなスポットライトの裏側にある孤独や、過去の恋愛、そして自分自身を見失いそうになる葛藤を赤裸々に綴っています。タイトルが示す通り、「見つけた場所にそのままにしておいて」という切実な願いと、そこからの脱却をテーマにした、エモーショナルでパーソナルな一枚に仕上がっています。
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ジャンルと音楽性
本作のジャンルは、エモ・ラップ(Emo Rap)をベースにしつつ、オルタナティブ・ロックやポップ・パンクのエッセンスを巧みにブレンドした「次世代のオルタナ・ポップ」と言えます。軽快なギターのカッティングや疾走感のあるドラムビートが多用されており、キャッチーでありながら、どこか物悲しさを漂わせるメロディラインが特徴です。Iann Dior特有のスムースで透明感のある歌声が、エフェクトを抑えた生楽器のサウンドと融合することで、より人間味のある、オーガニックな響きを獲得しています。
おすすめのトラック
- 「do it all」 疾走感あふれるギターリフが印象的な、アルバムの勢いを象徴する楽曲です。愛する人のためにすべてを捧げようとする情熱と、その裏にある危うさを、エネルギッシュなパンク・サウンドに乗せて歌い上げています。
- 「10×3」 アップテンポなリズムに乗せて、過去の自分や不健康な人間関係からの決別を宣言するトラックです。キャッチーなフックが耳に残りやすく、失恋の痛みさえもポジティブなエネルギーに変換していく彼の進化が感じられます。
- 「liar」 裏切りや嘘をテーマにした、ヒリヒリとした感情が伝わる一曲です。エモーショナルなボーカルが、歪んだギターサウンドと共鳴し、信頼が崩れていく瞬間の心の叫びを鮮烈に描き出しています。
- 「start again」 アコースティックな響きを活かした、非常にパーソナルな楽曲です。人生のやり直しを望む切実なリリックが、繊細なボーカルワークによって際立っており、アルバム後半のハイライトとなっています。
- 「sweetest demon」 甘美でありながらも有害な関係を「甘い悪魔」と表現した、中毒性の高いトラックです。ダークな雰囲気を纏ったメロディと、抗えない誘惑に翻弄される姿を歌ったリリックが、Iann Diorの持つミステリアスな魅力を引き立てています。
アルバム総評
『leave me where you found me』は、Iann Diorというアーティストが、単なるヒットメーカーではなく、深い内省と表現力を持ったストーリーテラーであることを証明した作品です。過去のスタイルを継承しつつも、より洗練されたロック・アプローチを取り入れたことで、音楽的な幅が格段に広がりました。失恋や孤独といった誰もが経験する痛みを、これほどまでに美しく、そして軽やかに鳴らせる才能は稀有です。リスナーの心に寄り添いながらも、最後には前を向かせてくれる、現代を生きる若者たちのためのアンセムが詰まった傑作と言えるでしょう。



