Happy Mondaysの代表作『Pills ‘N’ Thrills And Bellyaches』(1990年)は、マンチェスター・ムーヴメント、いわゆる「マッドチェスター」の熱狂を最も象徴するアルバムのひとつです。ダンスビートとロックの荒々しさ、そして独特のルーズなユーモアが融合し、クラブカルチャーとインディロックの境界線を消し去った作品として音楽史に名を刻んでいます。当時のUKシーンを決定づける重要作でありながら、今聴いてもその鮮烈さは少しも色褪せません。
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ジャンルと音楽性
『Pills ‘N’ Thrills And Bellyaches』は、アシッドハウスの陶酔感とインディロックのエネルギーを大胆に掛け合わせたサウンドを特徴とします。強烈なビートとグルーヴィーなベースラインが全体を支え、ショーン・ライダーの気怠くも奔放なヴォーカルがそれに乗ることで、ロックでもダンスでもない新しい快楽的サウンドを生み出しています。プロデューサーのポール・オーケンフォールドとスティーヴ・オズボーンの手腕も大きく、クラブとライブハウスの両方に響く音作りが完成されました。
おすすめのトラック
- 「Step On」
本作の代名詞ともいえる代表曲で、元々はジョン・コンゴスの楽曲のカバーですが、Happy Mondaysはそれを大胆に再構築。中毒性のあるピアノリフと軽快なビートが絡み合い、ショーンの“you’re twisting my melon, man!”という印象的なフレーズが聴く者を惹き込みます。 - 「Kinky Afro」
アルバム冒頭を飾るナンバーで、キャッチーなギターリフとダンサブルなリズムが融合。歌詞は奔放ですが、その混沌こそがバンドの魅力であり、アルバム全体の方向性を提示するオープニングにふさわしい仕上がりです。 - 「Loose Fit」
タイトル通り肩の力が抜けたグルーヴが心地よく、バンドの持つリラックスした空気感を最大限に体現した楽曲。クラブでもライブでも自然に身体を揺らせるナンバーで、Happy Mondays流のダンスロックを象徴しています。 - 「Dennis and Lois」
混沌としたエレクトロニックな要素とロック的な骨格が同居するトラックで、バンドの遊び心と実験性が光る1曲。単なるクラブミュージックに収まらない幅広さを感じさせます。
アルバム総評
『Pills ‘N’ Thrills And Bellyaches』は、単なる時代の産物ではなく、クラブカルチャーとロックシーンをつなぐ架け橋となった歴史的アルバムです。その音楽はルーズで破天荒、しかし同時に陶酔的で抗いがたい魅力を持ち、今なお新鮮さを失っていません。Happy Mondaysが作り上げたサウンドは、その後のブリットポップやオルタナティブダンスにも大きな影響を与えました。マッドチェスターを語る上で外せない金字塔であり、90年代UK音楽の自由な空気を体感できる一枚といえるでしょう。