Sleaford Mods『English Tapas』
2017年にリリースされたスリーフォード・モッズのアルバム『English Tapas』は、彼らが世界的な注目を集める中で放たれた、怒りとユーモアが同居する重要作です。ノッティンガム出身のデュオである彼らは、簡素なラップトップ・ビートと、ひたすら罵倒に近い言葉を吐き出すヴォーカル・スタイルで、他に類を見ない地位を築きました。アルバムタイトルの「イングリッシュ・タパス」とは、イギリスのパブで見かけた、あり合わせの乾き物を並べただけのメニューに由来しており、当時の英国社会の「貧しさ」と「見栄」を皮肉った彼ららしいセンスが光っています。
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ジャンルと音楽性
本作のジャンルは、広義には「ポストパンク」や「エレクトロ・パンク」に分類されますが、その実態は極めてユニークです。アンドリュー・フィアーンが繰り出す、ベースラインを中心とした武骨でミニマルなループ・ビート。その上に、ジェイソン・ウィリアムソンが強烈なノッティンガム訛りで、政治、消費社会、そして音楽業界への不満を叩きつける「スポークン・ワード(朗読)」スタイルが乗ります。余計な装飾を一切排除したDIYなサウンドは、ヒップホップのダイナミズムとパンクの衝動を同時に持ち合わせています。
おすすめのトラック
- 「Army Nights」 週末に浮かれる若者たちの空虚さを冷笑的に描いた楽曲です。どこか哀愁を感じさせるシンセのフレーズが、ジェイソンの投げやりなヴォーカルと絶妙にマッチしており、彼ら流のポップ・センスが垣間見えるトラックです。
- 「B.H.S.」 経営破綻した英国の大手小売チェーンを題材に、労働者を切り捨てる資本主義の非情さを歌っています。淡々と刻まれるビートが、逃げ場のない現実を象徴しているかのようで、本作の中でも最も社会的メッセージの強い1曲です。
- 「Moptop」 スカスカのベースラインとドラムだけで構成された、スリーフォード・モッズの真骨頂と言えるナンバーです。単調なリズムが続く中で、ジェイソンの言葉が徐々に熱を帯びていく様は、聴く者をトランス状態のような没入感へと誘います。
- 「Snout」 どこかパンキッシュな疾走感を感じさせます。卑近な日常の風景を切り取りながら、それを普遍的な「怒り」へと昇華させる彼らの筆致は、まさに現代の労働者階級の代弁者と呼ぶにふさわしいものです。
アルバム総評
『English Tapas』は、派手な演出や複雑なコード進行などなくても、真実を突く言葉と骨太なリズムがあれば、音楽はここまで強力な武器になることを証明した作品です。
一見するとぶっきらぼうで攻撃的なアルバムですが、その底流には英国社会への深い洞察と、どこか自虐的な愛が流れています。音楽としてのミニマリズムを追求しながらも、聴き終わった後に残る情報の解像度は非常に高く、まさに「今のイギリス」をパッケージングした歴史的なドキュメントと言えるでしょう。退屈な日常に刺激が欲しい時、これほど中毒性のあるアルバムは他にありません。



