ブライアン・イーノの1973年ソロ・デビュー作『Here Come the Warm Jets』は、グラムロックとアヴァンギャルドの間を行き交う異端の名盤。Roxy Music脱退後に放たれたこの作品は、ポップの形式を借りながらも、徹底的にねじ曲げられた音像でリスナーを混乱と魅了の渦に引き込む。カオスと美、ユーモアと緊張が同居する音の実験室として、今なお多くのアーティストに影響を与えている。
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ジャンルと音楽性
本作は一応「アートロック」「グラムロック」「エクスペリメンタル・ロック」と分類されるが、その実、ジャンルという枠では収まりきらない自由な音世界が広がる。イーノは、プロデューサーとしての視点と、音の“配置”を操る画家のような感性を武器に、従来のロックを解体・再構築してみせる。奇妙なボーカル処理、ノイズ混じりのギター、バラバラに聴こえるリズム群が、美しくも歪なポップソングとして結晶していく過程は驚異的だ。
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おすすめのトラック
- 「Needles in the Camel’s Eye」
アルバムの冒頭を飾るグラム・アンセム。鋭く重ねられたギターと、イーノの感情を抑えたボーカルが対比的で、中毒性のあるリフが耳に残る。シンプルに聴こえながらも、音の重なり方に緻密な計算がある。 - 「Baby’s on Fire」
約6分にもわたるノイジーな実験ポップ。イーノの気怠いボーカルの後ろで、ギタリストRobert Frippが放つ暴走ギターソロが圧巻。スリリングで緊張感に満ちた名演。 - 「Cindy Tells Me」
60年代風ポップを下敷きにしたかのような一曲だが、どこかシュールな浮遊感が漂う。コード進行とメロディは親しみやすくも、不安定さが癖になる。 - 「Dead Finks Don’t Talk」
イーノ流のブラック・ユーモアが炸裂した、サイケデリックかつ皮肉に満ちたナンバー。後半のカオティックな展開は、まさに「音の実験」の象徴。 - 「Here Come the Warm Jets」
タイトル曲にしてラストを飾る一曲。言葉にならない郷愁と美しさをたたえたインストゥルメンタル調のサウンドが、全体の混沌を静かに鎮めて幕を閉じる。タイトルが象徴する「温かいジェット」とは何か?聴くたびに解釈が変わる。
アルバム総評
『Here Come the Warm Jets』は、ブライアン・イーノというアーティストがいかに型破りで、なおかつポップへの敬意を忘れていないかを証明する作品である。実験性とエンタメ性が見事に共存しており、「難解」ながらも「楽しい」音楽という稀有な体験を提供してくれる。今なお時代を超えて評価される理由は、この矛盾のバランスにある。革新の歴史に名を刻んだ傑作だ。