シンガーソングライター、Hana Vuが2021年に発表したデビュー・アルバム『Romanticism』は、彼女の鋭い内省と繊細な感情が凝縮された作品です。本アルバムは、現代社会における孤独、曖昧な感情、そしてロマンティシズムという概念そのものをテーマに、抑制されたサウンドと深みのあるメロディでリスナーの心に静かに語りかけます。10代の頃から自作の楽曲を発表してきた彼女が、満を持して世に送り出したこの作品は、インディー・ポップ／ロックシーンにおいて、新たな才能の出現を決定づけるものとなりました。
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ジャンルと音楽性
本作の核となるジャンルは、インディー・ポップ、またはローファイ・インディー・ロックと形容されます。特徴的なのは、その抑制された、アンビエントなサウンドスケープです。ギター、ベース、ドラムといった基本的なバンド編成を軸としつつも、過度にエモーショナルに爆発することはなく、全体を通してクールで淡々としたトーンを保っています。
しかし、その静けさの中に、Hana Vuの多層的なボーカルが響き渡ります。時に囁くように、時に力強く歌い上げる彼女の声は、アルバム全体に漂う内省的でやや憂鬱な雰囲気を形作っています。特に、シンプルでありながら空間的な広がりを感じさせるプロダクションは、彼女のパーソナルな歌詞の世界観を際立たせる効果を生んでいます。
おすすめのトラック
このアルバムの魅力を深く味わうために、特におすすめしたい4曲をピックアップし、ご紹介します。
・「Hammer」 アルバムの中でも特にダークで重い雰囲気を纏った楽曲です。抑制されたドラムとずっしりとしたベースラインが、内省的なムードを強調しています。感情の奥底に横たわる、なかなか言語化できない重いテーマに、気だるさを帯びた彼女のボーカルが静かに向き合っています。
・「Alone」 タイトルが示す通り「孤独」をテーマにした、アルバムの中でも特に切実さが感じられるトラックです。シンプルなギターリフと、感情が豊かに込められたボーカルが際立っており、リスナーの胸にダイレクトに響きます。初期のローファイ・インディー・サウンドの面影も感じさせる、生々しい一曲です。
・「22」 このアルバムの核となる、非常にパーソナルな楽曲です。22歳という特定の年齢（またはその時期）における、葛藤や不安定な心情を赤裸々に表現しています。メロディ自体はキャッチーな要素を持ちながらも、深い内省とシニカルさが歌詞に含まれており、現代の若者の心情を代弁するアンセムとなり得るトラックです。
・「Dreams」 ドリーミーでアンビエントなサウンドスケープが特徴の楽曲です。ゆったりとしたテンポ感と浮遊感のあるシンセサイザーの音が、まるで夢の中を漂っているようなぼんやりとした感覚を表現しています。アルバムのタイトルである「ロマンティシズム」というテーマを、最も幻想的に体現しているトラックの一つと言えるでしょう。
アルバム総評
『Romanticism』は、一見すると地味に聞こえるかもしれませんが、聴けば聴くほどその魅力が深く染み込んでくるタイプのアルバムです。Hana Vuは、自身の内面的な混乱や、現代におけるロマンティックな感情のあり方を、飾り気のない言葉とサウンドで正直に描き出しています。特に、彼女と同世代のリスナーにとっては、自身の抱える不安や曖昧さを代弁してくれるような共感を覚えるでしょう。クールで洗練されたプロダクションの中に、確かなソングライティング能力と、次世代のインディー・アイコンとしてのポテンシャルが感じられる、極めて重要なデビュー作と言えます。
