Kid Creole and the Coconuts『Tropical Gangsters』
1980年代初頭のニューヨーク・ポストパンク〜ニューウェイヴ・シーンにおいて、ひときわ異彩を放った才人オーガスト・ダーネル率いるキッド・クレオール&ザ・ココナッツ。彼らが1982年に発表した『Tropical Gangsters』(米国題『Wise Guy』)は、バンドを世界的なスター・ダムへと押し上げた最高傑作です。ズート・スーツに身を包んだ「キッド」と、華やかなコーラス隊「ココナッツ」が織りなす豪華絢爛なステージをそのままパッケージしたような、物語性に満ちた1枚となっています。
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ジャンルと音楽性
本作の核となるのは、ラテン、カリプソ、レゲエといったトロピカルなリズムに、ニューヨークらしい洗練されたディスコ・ファンクとジャズの要素をブレンドした「トロピカル・ファンク」です。しかし、単なるダンス・ミュージックに留まらないのが彼らの真骨頂。そこにはキャバレーやミュージカルの演劇的要素、そしてオーガスト・ダーネルによる知的で皮肉に満ちた物語が組み込まれています。洗練されたホーン・セクションと軽妙なベースラインが、聴く者を架空のリゾート地へと誘います。
おすすめのトラック
- 「Annie, I’m Not Your Daddy」 アルバムの冒頭を飾る、彼らのキャリアで最も有名なヒット曲。軽快なカリプソのリズムに乗せて「私はお前の父親ではない」という衝撃的な内容を歌う、ダーネル流のブラック・ユーモアが光る一曲です。
- 「I’m a Wonderful Thing, Baby」 これぞニューヨーク・ディスコといった趣の、タイトで洗練されたファンク・ナンバー。自己愛に満ちたキザな歌詞を、クールなグルーヴで見事に聴かせる構成が秀逸です。
- 「Stool Pigeon」 スウィング・ジャズの躍動感と、80年代初頭のダンス・フロアの熱気を融合させたハイブリッドな楽曲。思わず踊り出したくなるようなホーンのフレーズと、ココナッツのコーラスの掛け合いが最高にスリリングです。
- 「The Love We Have」 賑やかなダンス・ナンバーが多い中で異彩を放つ、メロウで美しいラヴ・バラード。キッド・クレオールのロマンティックな一面が強調されており、アルバムの構成に深い奥行きを与えています。
- 「Loving You Made a Fool Out of Me」 レゲエやダブの影響を感じさせるリズム・アプローチに、切ないメロディが乗る隠れた名曲。ココナッツのハーモニーが、南国の夜のような幻想的なムードを醸し出しています。
アルバム総評
『Tropical Gangsters』は、1980年代という時代が生んだ、最もエレガントで奇妙で、そして幸福なダンス・アルバムの一つです。多文化主義(マルチ・カルチャリズム)を音楽で体現したようなサウンドは、発表から40年以上経った今でも驚くほどモダンに響きます。単なるレトロ趣味ではなく、ダンス・ミュージックの快楽とポップ・ソングの物語性を、これほど高い次元で両立させた例は他にありません。日常を忘れ、華やかな「トロピカル・ギャング」たちの宴に酔いしれたい夜、これ以上に最適なサウンドトラックはないでしょう。



