サイコビリーという概念そのものを創り出し、今なおその頂点に君臨し続ける絶対的リーダー、P.ポール・フェニック。彼が率いるThe Meteorsが1987年に世に放った『Don’t Touch the Bang Bang Fruit』は、単なるアルバムの枠を超え、ジャンルのバイブル(聖書)として語り継がれています。
このデラックス・バージョンでは、オリジナル盤が持っていたヒリつくような緊張感に加え、貴重なライブ音源やデモ、シングルB面曲が網羅されています。「Only The Meteors Are Pure Psychobilly」という彼らのスローガンが、単なる誇大広告ではなく、揺るぎない事実であることを証明する重厚なパッケージとなっています。
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ジャンルと音楽性
本作の核にあるのは、1950年代のロカビリーが持つスウィング感と、70年代後半のパンクが持っていた破壊的エネルギーの完全な融合です。しかし、メテオスの音楽を「その中間」と表現するのは不十分でしょう。
彼らはそこに、ホラー映画の猟奇性や、SFの不気味さ、そして夜の街の孤独をスパイスとして加えました。特に今作では、初期の性急な衝動に加えて、音楽的な「奥行き」が格段に増しています。P.ポール・フェニックのギターは、ある時はサーフ・ミュージックのように優雅に歌い、またある時はチェーンソーのように聴き手の鼓膜を切り裂きます。
おすすめのトラック
・「Go Buddy Go」 冒頭からフルスロットルで駆け抜ける、ライブの熱狂をそのまま封じ込めたような一曲。 聴く者の心拍数を強制的に引き上げる、中毒性の高いリズムセクションが圧巻です。
・「Crack Me Up」 これぞサイコビリー!と言わんばかりのスピード感と、叩きつけるようなドラミングが心地よいナンバー。 混沌とした日常を吹き飛ばすような、攻撃的でスカッとする爽快感(Crack)が詰まっています。
・「Don’t Touch The Bang Bang Fruit」 アルバムのタイトル・トラックにして、彼らの実験精神が結実した名曲。 不穏なイントロから、一気に開放されるサビのメロディ。サイコビリーという音楽が持つ「影と光」を象徴するナンバーです。
・「Wildkat Ways」 うねるようなスラップベースが、夜の静寂を侵食していくかのようなミドル・チューン。 重厚なグルーヴが、聴く者を逃れられないトランス状態へと誘います。
・「Shakey Snakey」 蛇が這い回るような不気味なリフと、聴く者の体を揺らさずにはいられない妖艶なリズム。 メテオーズ流のダークなダンス・ミュージックとも言える一曲で、夜のダンスフロアで映えること間違いありません。
アルバム総評
『Don’t Touch the Bang Bang Fruit』は、サイコビリーという文化が、一時のブームではなく、一つの完成された芸術形式であることを世界に示しました。
デラックス・バージョンによってその全貌が明らかになった今、改めて本作を聴き返すと、彼らが後世に与えた影響の大きさに驚かされます。毒々しくも甘美なメロディ、および決して妥協しない「ピュア」へのこだわり。このアルバムは、暗闇の中で輝き続ける漆黒の宝石です。全ての音楽愛好家が、この「禁断の果実」に手を伸ばすべき時が来ました。


