1960年代後半、アメリカのデトロイトから彗星のごとく現れ、後のパンク・ロックやハードロックの礎を築いた伝説のバンド、MC5。本作『Anthology 1965-1971』は、彼らが活動した激動の6年間の歩みを俯瞰できる決定版のコンピレーションです。初期の荒々しいガレージ・サウンドから、政治的メッセージを内包した過激なライブパフォーマンス、そして洗練へと向かった後期の楽曲まで、彼らが駆け抜けた熱狂の軌跡が鮮明に記録されています。「音楽は革命の道具である」と信じた彼らの、剥き出しのエネルギーに触れることができる貴重な一作です。
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ジャンルと音楽性
MC5の音楽性は、一言で言えば「ハイエナジー・ロック」ですが、その根底には多様な要素が混ざり合っています。
- プロト・パンクの先駆け: 1970年代中盤に爆発するパンク・ムーブメントの数年以上前に、彼らは既に歪んだギターと叫ぶようなボーカルで、攻撃的なロックを展開していました。
- フリージャズの影響: ギタリストのウェイン・クレイマーとフレッド・スミスは、ジョン・コルトレーンなどのフリージャズからインスピレーションを受けており、即興演奏の激しさとカオスな音像が大きな特徴です。
- ソウルとR&Bの熱量: デトロイトという土地柄、モータウン・サウンドにも影響を受けており、黒人音楽特有のうねるようなグルーヴと熱いシャウトが、ロックのダイナミズムを加速させています。
おすすめのトラック
・「Kick Out the Jams」 彼らの代名詞であり、ロック史上最も有名な掛け声から始まる爆発的なナンバーです。 観客を煽り立てる圧倒的なパワーと、うねるような重厚なリズムは、今聴いても全く色褪せることがありません。
・「Looking at You」 初期のガレージ・ロック的な衝動が詰まった一曲です。 シンプルながらも強烈なリフと、焦燥感を煽るようなスピード感が、後のガレージ・パンク勢に多大な影響を与えました。
・「The American Ruse」 2ndアルバム『Back in the USA』に収録された、皮肉たっぷりの政治的メッセージソングです。 キャッチーなメロディラインとタイトな演奏が特徴で、彼らの知的な側面とポップ・センスが光ります。
・「Sister Anne」 3rdアルバム『High Time』からの楽曲で、よりハードで重厚なサウンドへと進化した姿を示しています。 ブルース・ロックをベースにしつつも、管楽器を取り入れた豪華なアレンジが施され、バンドの成熟を感じさせます。
・「Gotta Keep Moving」 バンド後期の名作『High Time』に収録された、タイトル通り止まることのない疾走感に満ちたナンバーです。 複雑に絡み合うツインギターと力強いビートが融合し、彼らが単なる衝動だけでなく、極めて高い演奏技術を持ったコンボであったことを証明する圧巻の1曲です。
アルバム総評
『Anthology 1965-1971』は、MC5というバンドがいかに早すぎた存在であり、同時にいかに誠実なロッカーであったかを証明しています。彼らのキャリアを一枚で把握できる利便性はもちろん、未発表音源やシングル・バージョンなども含まれており、資料的価値も極めて高い内容です。 単なる「過去の遺産」としてではなく、現代のロックが失いつつある「音楽で世界を変えようとする無謀なまでの情熱」を、本作から感じ取ることができるでしょう。激動の時代を駆け抜けた彼らの咆哮は、今もなお私たちの魂を揺さぶり続けています。
